誰だ!恋人を相方と呼ぶのは③〜ムカデ人間3に相方さんの数珠つなぎを〜

まずは、前回前々回の記事を読んだ人から届いた感想報告から。

Twitterのリツィート先やFacebookのシェア先を辿ってみると、おおむね記事の内容を肯定する意見が多かった。その中でも興味深かったのは、

「ひどいと相方に“さん”を付ける人もいますよね。個人的に“彼氏さん”“彼女さん”もイラッてきます」

という感想。

たしかに、「彼氏さん」「彼女さん」も聞いた瞬間、違和感というか、気づいたら頭の妖怪アンテナが立ってるなあ。本人にしてみたら気を使ってるつもりだろうけど、なんでもかんでも「さん」付ければいいってもんじゃねーだろ。ただし、妖怪「べとべとさん」は「さん」までが正式名称です。

 

また、書評家の杉江松恋さんからは次の感想をいただいた。

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へええ、遊郭では客は遊女のことを「敵娼」(あいかた)って呼んでいたのか。手元にある広辞苑を開いてみると、なるほど、

あいかた【相方】

①相手(あいて)。相手役。②(「敵娼」とも書く)客の相手をする遊女。

とある。その語源に思いを巡らすとなかなか味わい深いし、風流な呼称だけど、たしかに奥さんや恋人に使うのは字面を抜きにしてもふさわしくないわな。

 なんだか、ぼくの長々としたブログなんかより、松恋さんの的を射た一言の方に得心いってしまった人が多いような気もするが...。ただ、これで過去の風習的にも「相方」が配偶者や恋人の呼称としてミスマッチなのがわかったわけだけど、今回はぼく以外の相方否定論者をその発言と共に紹介したい。

 

まず、一人目は、作詞家でコラムニストのジェーン・スーさん。昨年12月13日放送のTBSラジオ「週末お悩み解消系ラジオ ジェーン・スー相談は踊る」の番組冒頭、ジェーン・スーさんがリスナーに向けてした相談は、

「中年がお付き合いしている人のことを言い表すベストな呼び方が思いつきません。皆さん、何がいいと思いますか?」

 

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相談内容を要約すると、中学生ぐらいだったら「彼氏」「彼女」という呼称に憧れると思うが、中年になるとお付き合いしている人のことを何と呼べばいいか戸惑ってしまうと。以下は、ジェーン・スーさんが発した「相方」否定発言を書き起こししたものである。

自分の相方って呼び方をする人もいるじゃないですか。でも、“相方”ってさぁ。うちの相方が。んー? お笑いでもやってらっしゃるんですか? じゃあね、大人っぽく“パートナー”って言うのもなんか主義主張がありそうじゃん、パートナー。で、“恋人が”とか? 恋人? お前の恋愛事情なんかどうでもいいよって話でしょ。“ボーイフレンド”。aikoか、って話。全然しっくりこない。

ジェーン・スーさんの悩みはぼくよりも深いというか、四十代に入ったからこそ生まれる悩みなのかもしれない。

たとえば、同世代でちょっと年上の同性の知り合いに未婚でお付き合いしている人がいる。その人のことを自分が知っていれば、「○○さん、元気ですか」「○○さんはそれってなんて言ってるんですか」って訊けばいいんだけど、相手の男性を知らなかった場合、なんて言ったらいいのか。“彼氏”ってなんか失礼じゃん。彼氏って。

ただ、ぼくと同じように「彼氏さん」「彼女さん」に対しては「相方」に似た嫌悪感を持っているようで、

で、“彼氏さん”。なにそれ。いるけどさ、そういうこと言う人。彼氏さん、彼女さんはちょっとヤでしょ。で、たとえば、女の先輩にさあ、「うちの相方が」って言われたら、うわっ、さむっ! 相方、さむっ! てなるじゃないですか。

「相方」の使用例として、前回ぼくが指摘した「さむっ!」という関西お笑い界から発生したギョーカイ用語を続けて使ったのも、その気持ち悪さを浮き彫りにするためだろう。たぶん。

あと、若い男のコが自分の彼女のことを「嫁が」って言うの、何アレ? してないじゃん、結婚。うちの嫁がさあ〜。なにアレ? 二次元か! 結婚してない人が「嫁が」っていうのも肌寒い感じがするし。

出た! 嫁問題。

当ブログの読者にも「嫁」という呼称に違和感を感じている人は多かった。たしかに、エラそーで、ぞんざいな存在に聞こえるもんな、嫁。

「嫁」というのも、決して関西特有の呼称ではないけれど、「相方」と同様、関西お笑い界からの影響で広まった印象が強いなあ。

 

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しかも、発するときのニュアンスは「嫁」というよりも「ヨメ」のような気がする。

さらに言うと、関西のお笑い芸人が多用していた「ヨメ」を「相方」「さむい」「スベる」と共に芸人以外のタレント、そして一般にまで普及させたのは、やはり90年代前半から中頃に圧倒的な言葉の影響力を持っていたダウンタウン松本人志)なのではないだろうか。当時小学生だったりあるキッズまで漫才で「嫁が〜」とか言ってたしなあ。

「相方」といい「ヨメ」といい剛堂本といい、人志松本はなんとも厄介な落とし胤を撒いてくれたもんだわい。それをなんの疑問に思わずに使ってる一般人が一番バカなんだけど。

 

 ジェーン・スーさんに続いて相方否定論者として紹介するのは、ライムスター宇多丸さん。その日の「相談は踊る」番組終了間際に登場した宇多丸さんは、ジェーン・スーさんと一緒にリスナーから届いた「中年のベストな相手の呼び方、“ラブ・パートナー”はどうでしょうか」というメールに対して、次のようなトークを展開した。

ジェーン・スー「ないでしょ!」

宇多丸「ラブはいらないじゃん、別に。パートナーって言い方するんじゃない?」

ジェーン・スー「でも、ちょっと恥ずかしくないですか、四十過ぎて彼氏とか彼女とか。相方ってすごいヤじゃないですか」

宇多丸「ヤだねぇ。ヤだねぇ。ヤだねえ〜」

ジェーン・スー「ヤでしょー」

堀井アナ「でも、相方とラブ・パートナーでしたら」

ジェーン・スー「どうしょ、これ!?」

宇多丸「ラブ・パートナーの方がまだイイな。なんか相方って、どっかで聴いたことようなこと言いやがって感がなあ」

 聴いてて気持ちなるほどのDisっぷり。「ヤだねぇ。ヤだねぇ。ヤだねえ〜」という三連発からは「DA・YO・NE」(EAST END×YURIを思い出してしまった。

たしかに、「うちのラブ・パートナーがね」という呼び方は、「ダーリン」「ハニー」などと比べても突き抜けてる感があってむしろ清々しい。運が良ければ、ラブラドールレトリバーの略称と勘違いしてくれるかもしれないし。

 

ジェーン・スーさん、宇多丸さんの発言だけでも相方否定派にとっては心強い味方なのだが、最後に、ぼくがこの相方ネガキャンを始める後押しをしてくれた人の言葉を紹介したい。

みうらじゅんさんである。

出典元は、著書「正しい保健体育Ⅱ<結婚編>」。

 

その中に収められている相談形式のミニコラムの中で、みうら先生は「結婚後、奥さんのことをどう呼べばいいのでしょうか?」という質問に次のように回答している。

もっともいいのは、名前をさん付けで呼ぶことです。

奥さんが目の前にいるときに、「こいつがさ」と言う男は、偉そうだなと先生は思います。エジソンが奥さんを「お前」と呼んでいても、偉いからいいですが、ふつうの家庭の旦那は、何が偉いのでしょうか?

(中略)

互いのことを「空気みたい」と発言する人は、外で自分の伴侶のことを「相方」と呼びがちですが、これは論外です。

しかし、ごくまれに自分の奥さんのことを「うちの花子選手がさ〜」と言う人がいますが、これは珍しい昭和の例として許してあげましょう。

 

そう、いくら「空気」 みたいな関係の相手だからって、その曖昧さを他人にまで押し付けることはない。対極にあるようだけど、人前でイチャイチャ(a.k.a.前戯)を見せつけているのと一緒の行為なのである。

一言でいうと、家でやれ。「相方プレイ」は。

このブログを読んだのを機に一人でも多くの「相方」ユーザーが「選手」を使い始めることを願って、今回はこの曲で締めさせていただく。

 

「相方だったかもしれない」(作詞:ボニー・アイドル)

(なにが)相方だ 相方だ

相方だ Penis!

(なにが)相方だ 相方だ

相方だ Penis!

君に...

 

ブログにフェイスブック

書きながら考える

みんなと同じ彼氏や恋人じゃ

言い表せない

 

やっと見つけた 本当の呼び方

スカしてゆくんだ

たったひとつこの道を

走れ!

 

彼氏なら 彼氏と言おう

誤魔化さず 素直になろう

カミさんなら カミさんと言おう

胸の内 さらけ出すよ

 

(なにが)相方だ 相方だ

相方だ Penis!

(なにが)相方だ 相方だ

相方だ Penis!

君に...

 

なお、メロディはこちらの動画を参考にしてください。

www.youtube.com

(続かないかもしれない)