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オナニー特集・エッセイ「3P」(ボニー・アイドル)

「3P」  byボニー・アイドル

 

 松竹養成所を「卒業」してから、ぼくはスーパーとホームセンターのバイトも辞め、今で言うニートのような生活を送っていた。親からの仕送りを頼りに、就職先を探すわけでもなく、ただただボンクラとして日々をやり過ごしていた。

 

「シャブ中かと思ったよ」

 肩を落とし、俯きながら街を歩いているぼくを見て、元バイト先のスーパーの店長が声をかけてきたこともあった。

 近所の御伊勢塚公園の桜が散り、五月になった。そろそろぼくの二十一回目の誕生日がやってくる。

(とうとう二十歳でもセックスはできなかったか……

 将来どころか明日への希望さえ失いながらも、時々、頭の片隅にはいつまで経っても童貞を失えないことへの焦りがよぎった。

 一年前の誕生日、ぼくはヤラずに二十歳、“ヤラハタ”を迎えた。同時に、彼女いない歴のカウントもまたひとつ増えた。

 小学生の頃から官能小説を読み、『トゥナイト2』で山本カントクの風俗レポートを見るのを欠かさず、高校の頃にはレンタルAVを片っ端からダビングして同級生たちに自慢していた。性、というかエロに関する知識は同級生以上に持っていたが、所詮は机上の空論だった。それまで人気を博していたぼくのエロ噺は高校生になってからは、同級生がぽつりと呟いた「昨日、女子校の二つ上のコとヤッたよ」という一言の前ではなんの説得力も持たなかった。

 

 一人暮らしを始めてからも養成所の同期とはまったくと言っていいほど交流がなかったので、合コンの誘いがあるわけもなく、女っ気のない日々は続いた。ただ、一度だけ、同じホームセンターのバイト仲間で、歳がひとつ下の “歩ちゃん”とデートをしたことがある。

 歩ちゃんは顔がタイプだったわけでも、性格に惚れたわけでもなかったが、バイトのユニフォームを着ていても隠しきれない胸の膨らみに惹かれた。

 勇気を振り絞って、歩ちゃんを映画に誘ったのは養成所の卒業オーディションが間近に迫っていた二月のある日。待ち合わせ場所の最寄り駅の東上線霞ヶ関駅に歩ちゃんはぼくより少し遅れてやって来た。

 ふたり並んでふじみ野の映画館まで向かう道中、ぼくはジーンズの中で、股を冷たい液体がつたっている感覚を覚えた。カウパーが漏れていたのだ。女のコと並んで歩いているだけで。

 その日見た映画は、ぼくチョイスによる『戦場のピアニスト』だった。スクリーンの中では、瓦礫の中でユダヤ人ピアニストがナチスの捜索から必死に逃げ惑う姿が続いていたが、ぼくの視線は片隅に見えるニット越しの胸の膨らみに釘付けだった。そして、頭の中はジーンズに付いた染みを歩ちゃんに気づかれないか、それだけだった。

 感動のエンディングで映画は終わった。と思う。映画館を出ると外はすでに薄暗く、ぼくは「ふじみ野は知っているお店もないので、霞ヶ関に戻ってご飯を食べよう」と提案した。

 歩ちゃんは何の感情もないような表情で頷くと、「電車に乗る前にトイレ行ってくるね」と言って小走りで駅内のトイレに向かって行った。それっきり、待てども待てども彼女は姿を現さなかった。ケータイに電話しても知らない女が「おかけの電話番号は現在使われていないか、電波の届かない場所に…..」と繰り返すだけだった。

 

「いやんいやん、ああーん!!

 人生に背を向けて川越のアパートのロフトで春眠を貪っていたある日、壁越しに激しい喘ぎ声とパイプベッドがギシギシと揺れる振動が伝わってきた。

 隣に住む女子大生がまた男を引っ張り込んでいるらしい。どうやら、おっ始まってそれほど時間が経っていないようだ。ぼくは布団の傍に置いてあったコップを左手に、モツイチを右手に持ち、耳をそばだてながら壁越しの3Pを始めた。

 三人の中でいちばん早く果てたのはぼくだった。

(了)