ドラマ『高校教師』(1993年版)レビュー「第1話 禁断の愛と知らずに」
「心配いらないよ。私が全部守ってあげるよ。守ってあげる!」
登校ラッシュの校庭で、生徒から愛の告白らしき宣言を受ける新任教師・羽村隆夫(真田広之)。
おそらく、出会いから30分も経っていないだろう。
期限切れの定期を駅係員に問いつめられていたところを助け、その理由(更新し忘れていた)を信じただけだ。
戸惑うし、面食らって当然だ。
『高校教師』第1話は、そんなヒロインのエキセントリックな面が全開に現れている回だ。
同僚の宮原教師から仕事場となる生物室に案内されている羽村先生。
「生徒との関係にはくれぐれも気をつけるように」と釘を刺されていると、教卓の中に靴を脱がし、靴下を脱がし、ズボンのファスナーを下ろし、即尺...ではなく、足の甲にネコの落描きをする者がおるではないか。
朝のあの生徒だ!
宮原先生をやり過ごし冷や汗をかいている横で、笑顔で自己紹介をする少女。
「2年B組、二宮繭。出席番号22。O型。カニ座!」
同日の放課後。
教室で、藤村智樹先生(京本政樹)に贈る編み物をしている相沢直子(持田真樹)と、先ほどのネコを自分の足の甲にも描いている繭。
そこへ上級生3人組が乱入。標的は繭のようだ。
上級生たちは朝の羽村とのやり取りにいちゃもんをつけ、あまつさえ繭の足のネコの絵を見るや「何コレ? バカじゃない、こいつ」と足をぐりぐり。
繭は直子が使っていた裁縫ハサミを取り、女囚さそりのような目をしながら上級生の足を上履きごと斬りつける。
(たぶん)次の日の放課後。
コンビニで買い物をしている羽村先生のカゴのなかにこっそりブルボン「エリーゼ」を入れるところまではよかったが、転倒したところで気づかれてしまい、尾行は失敗。
このときの、心配しながら小走りで向かってくる羽村先生を見上げる桜井幸子の表情が最高!
紹介した繭のエピソードはぼくらにはエキセントリックに映るけど、普通ではない愛情を注がれて育てられた彼女にしてみれば当たり前の愛の表現なのだろう。
平凡な生活という殻に閉じ困ろうとする主人公と、そんな彼に運命のブレイクスルーを見たヒロイン。
『高校教師』第1話は対照的な願望を抱くふたりの交差点だ。