実録!サクラを見る会〜代理出席バイト体験ルポ(前編)

(1)

 代理出席業という仕事を知ったのはたまたま聞いた深夜ラジオがきっかけだった。「変わったバイト体験」というテーマで若手芸人が次のようなエピソードを披露した。

「結婚式で新郎新婦の出席人数のバランスが合わないから穴埋めをするバイトがあるんですよ。3時間くらいの拘束でバイト代は1万円。フルコースの料理も食べられるし、帰りには引き出物も貰えます」

 その若手芸人は結婚式に新婦側の依頼で親族役として出席したのだが、同じテーブルの出席者同士で新婦の思い出話などは一切出なかったという。彼はその異様な雰囲気についてこう振り返った。

「もしかしたらテーブル全員がサクラだったかも」

 このエピソードにかなり惹かれた。 

 元々ぼくは結婚式にいい印象を持っていない。

 近しい友人ならご祝儀に3万円は包まなきゃいけないし、挙げ句に見せられるのは友人の友人によるくだらない余興、新郎新婦の馴れ初めを描いたつまらないムービー、他人のキス現場などなどだ

 ぼくにとってこれほどまで酒がマズくなるプログラムはないし、冗談抜きに式中に噴飯どころか憤死するのでは、と思ったこともある。そして、そんなことを公言していたら結婚ラッシュの世代だというのにまったく結婚式のお呼びがかからなくなってしまった。

 そんな折、ラジオで結婚式という虚飾の裏にある悲哀とマヌケさを炙り出すような仕事を耳にしたのである。

 さっそくインターネットで「結婚式 代理出席 スタッフ募集」と検索してみると、たしかにそれらしき会社のホームページがいくつもヒットする。そのうちの数社に応募フォームからスタッフ登録をした。約ひと月後、代理出席業者のBから仕事の依頼メールが届いた。

「5月の最終日曜日にH市で予定している結婚式に代理出席をお願いしたい。役柄は依頼人様である新郎の友人2名のうちのひとりで、2人には披露宴の余興としてカラオケを歌ってもらいたい。報酬は7千円」

 続けて、引き受けてくれるなら余興のカラオケの曲を、秦基博ひまわりの約束」、Greeen「キセキ」、ウルフルズ「バンザイ」から選んでほしい、とある。

 待ち望んでいた結婚式のサクラバイトだ。しかも特別ミッション付きだ。歌にはまったく自信がないが、何とかなるだろう。すぐに快諾のメールを返信した。

 それから10日も経たずにBからまた仕事の依頼が来た。

「5月末の月曜日、S市での結婚式に20名のスタッフが必要なのでぜひ代理出席をお願いしたい」

 日付を確認するとこの案件はH市での結婚式翌日である。つまりぼくは2日連続で赤の他人の結婚式に出席することになる。こちらの依頼も承諾すると、折り返し、Bから事前面談の案内メールが届いた。

 代理出席業者Bの田村氏(仮名)との面談は池袋の喫茶店で行われた。田村氏は30代中頃でスーツにネクタイ姿、清潔な髪型をしており、物腰も含めて若手営業マンという雰囲気だ。

 まず代理出席スタッフとしての注意事項の説明を受ける。

一、代理出席の内容をネットや友人に他言してはいけない

一、結婚式の間、代理出席業について話をしてはいけない

一、結婚式の出席者と連絡先、個人情報を交換してはいけない

一、酒を飲んでもいいが泥酔しないこと

一、仕事の依頼メール、代理出席中に撮った写真は必ず削除する

 まあ、当たり前のことである。要は秘密厳守ということだ。続いて、後から依頼が来たS市での結婚式に関する打ち合わせとなった。

「新郎である依頼者様はとりあえず友人役を男女合わせて20人用意してほしいとのことです。高卒で現在美容師をされているようなので、我々の役柄は高校時代の友人か美容師仲間か幼なじみのどれかになるでしょうね。ただ、美容師さんというのは外見が独特の方が多いのでそれはやめておきましょうと相談しています。できれば高校時代の友人か幼なじみに持っていきたいですね」

 なるほど、結婚式の日取りが月曜日というのは不思議だったが、美容師なら納得である。

 田村氏によると、結婚式の仕事は基本的には土日に集中しているが、たまに今回のような平日に依頼が来るという。依頼人が美容師なら月曜日、不動産屋なら水曜日といった具合だ。

 また、「ジューンブライド」と言われているように6月が結婚式の人気シーズンかと思いきや、実際は9月〜11月の秋に集中しているという。

 仕事の打ち合わせが一段落ついたところでこちらから代理出席業に関する質問をしてみた。

Q「依頼人は交友関係で足りない人材を求めてくるわけですか」

「ほとんどが見栄ですね。向こうが50人招待するからこちらもせめて40人は用意しようとか新郎新婦の親御さんが頼みに来ることもありますよ。お母さんが『娘が友達少ないのよ。5人くらい用意してくれませんか』なんて」

Q「友人以外の役をお願いされることもあるんですか」

「たまにありますよ。両親と絶縁状態だったり、結婚を反対されていたりする場合はお父さん、お母さん役を用意します。一度、本当のご両親が結婚式に顔を見せないよう、実家を張り込みしたこともあります」

 また、家庭の事情や代理出席の存在を知っているのは依頼人ひとりというケースがほとんどで、当日は結婚相手やその親族にも注意しなければならないという。

「両家の親族が初顔合わせするのは結婚式当日になるわけです。結婚式後に、相手親族から『なぜ今まで顔を見せなかったんだ』と詰め寄られることもあります。そのため式が済んだら用意しているタクシーに飛び乗って逃げるように帰ります」

 面談中、田村氏の口から最初の依頼であるH市での結婚式に関する話題は一度も出なかった。20人を動員するS市での結婚式に手一杯でそれどころじゃない、という感じだ。それならぼくも初日の結婚式は予行演習のつもりで気楽に臨むことにしよう。

 面談終了間際、田村氏は「S市での結婚式で友人代表のスピーチを頼まれたらお願いできますか? もちろん、原稿はこちらで用意します」と聞いてきた。

 もしそうなったら2日連続で赤の他人の結婚式に出席し、余興、スピーチという特別ミッションを経験することになる。もちろん、承諾した。

 面談から数日後、田村氏からS市での結婚式で新郎の友人代表スピーチをお願いするメールが届いた。

(2)

 北関東の内陸部にあるH市。駅を出ると、友人の新たな門出を祝っているかのような五月晴れの空が広がっていた。

 会場のウェディングレストランはすぐに見つかった。集合時刻5分前になったところで、リーダーの青山氏(仮名)に到着を伝える電話を入れる。駅の方向からスマホを耳に当てて歩いてくるのがどうやら青山氏のようだ。

 軽いあいさつを交わし、青山氏から3万円入りのご祝儀袋と報酬の入った封筒を受け取る。準備が整ったところで、

(では、そろそろ行きますか)

 青山氏とアイコンタクトを交わし会場入りする。

 受付スタッフにご祝儀袋を渡し、芳名帳に記帳。名前はなんとか憶えてきたが、住所はスマホのメモを見ながら書いた。

 挙式が始まるまで、ロビー片隅で席次表を見ながら青山氏と本日の「設定」を確認する。

 本日、われわれは新郎の高校時代の友人役である。新郎とは高校は違ったが、この街にある寿司屋でバイト仲間として知り合い、今でも年に数回会う仲である。

「けっこう田舎ですよね。寿司屋って本当にあるんですかね」

 ウェルカムフードの焼き菓子をほおばりながら青山氏が聞いてきた。昨夜ググってみたところ、この街には寿司チェーン店が一軒だけあった。われわれが高校時代にバイトしていたのはおそらくその店だろう。

 初めて会う友人の結婚式に出席し、しかも余興という大役を任され、幾分ナーバスになっていたぼくと比べ、代理出席業経験者の青山氏からは余裕が感じられた。

「依頼メールには高砂にあいさつに行く必要はないってあるんで楽勝ですね。肉体労働よりは全然イイですよ」

「歌さえなければいいんですけどね…」

「ハモリは任せてください!」

 リーダーの頼もしさというより、能天気なのである。そうかと思えば、「そろそろ挙式が始まるのでこれからはタメ口でいきますか。でも、昔のバイト仲間が久しぶりにあったら敬語でも問題ないか」と妙に冷静なところもある。

 青山氏の実年齢はぼくより2つ上ということなので(それにしては落ち着きがないが)、バイト先の先輩後輩という間柄にした。

 挙式の時刻となり、ロビーから中庭に移動する。神仏に結婚の誓いをするのではなく、ゲストに結婚の証人となってもらう人前式というスタイルのようだ。

 入場口から初めて会う高校時代の友人が姿を現した。

「本日お呼びさせていただいた皆さまは、私たちが普段お世話になっている本当に大切な方々ばかりです」

 人前式に続いて行われた結婚披露宴は、われわれの依頼人である新郎のウェルカムスピーチから始まった。

 新郎は近くで見れば見るほど爽やかでハンサムな顔立ちをしていた。とても冒頭のあいさつのようなウソをつくような人物には見えない。

 われわれに用意されたのは高砂から最前列中央のテーブルだ。ぼくと青山氏の以外には、人前式で新郎側の立会人として誓約書に署名をした大学時代の友人を含む3名が座っている。

 依頼人がサクラを呼んだ事情は席次表を見てすぐに察しがついた。友人席が新婦側が3席なのに比べ、新郎側はぼくらのいる1席しかないのである。その1席が大学時代の友人3人だけというのはさすがに体裁が悪いと思ったのだろう。

 依頼人の友人が少ないのは、高校は隣の県に越境入学したというプロフィールが影響しているのかもしれない。

「新婦は見るからに床上手ですね」

 依頼人の事情に頭を巡らせているぼくをよそに、青山氏は披露宴が始まるやいよいよ調子に乗り始めた。

 先ほどなどは会場の女性スタッフが余興の段取りについて確認に来るや、「お姉さん、美人ですね」とナンパじみたことまでしていた。この時点でぼくは青山氏を心の中では「このバカ」と呼んでいた。

 ただ、この後控えている余興という大役にビビってひたすらソフトドリンクで我慢しているぼくよりも、周りに注がれるままにビールやスパークリングワインを飲んでいる彼のほうがハレの場にはふさわしい振る舞いなのかもしれない。

 新婦がお色直しで中座し、われわれのテーブルからも大学時代の友人が離れたタイミングを見計らって依頼主である新郎があいさつにやってきた。

「ごめんなさい、今日はありがとうございます」

 明らかに古くからの友人にする態度ではではない。われわれが心配になって様子を見にきたようだ。

「○○ちゃん、今日はおめでとう!」

 彼の真意が分からなかったので、とりあえず依頼メールにあったように学生時代のあだ名で呼び、ハイテンションで祝福すると、

「あんまり無理しないでいただいて…」

 そう言い残し、依頼人は不安そうな顔のままテーブルを離れていった。

 

 披露宴開始から1時間半が経過した。ウェイターがテーブルに高級和三盆入り和風ティラミスを置き終えるや、司会者がこれより余興タイムであることを告げる。いよいよか。

「それではご紹介しましょう。新郎の高校時代からのご友人のお二人です。どうぞよろしくお願いします」

 ステージに上がり、マイクを手にする。歌に入る前に新郎新婦にお祝いの言葉を一言ずつだ。

 まずは青山氏。

「○○ちゃん、××さん、ご結婚おめでとうざいます! いつまでも幸せな家庭を築けていけるように気持ちを込めて歌わせてもらいます。よろしくお願いします!」

 なぜか半笑いだが、気持ちは伝わった。

 そしてぼく。

「○○ちゃん、××さん、おめでとうございます。幸せな家庭を築いてください。おめでとうございました!」

 なぜか過去形だが、気持ちは伝わったはず。

「それでは歌を披露してもらいましょう。ウルフルズで『バンザイ』です」

 会場に短いイントロが鳴り響く。

「♪イエーイ…」

 青山氏は出番が来るまでは、「自分はハモリをやるのでメインボーカルはお任せします」「ダンス担当で」「手拍子やります」とやる気のない発言を繰り返していたが、実際はかなり歌が上手かった。ぼくは安心して途中からマイクのスイッチを切った。

(それにしても)

 会場にいる人たちは安くないご祝儀を払って赤の他人のカラオケをまるまる1曲聞かせられているのである。他にふさわしいやり方はなかったのだろうか。

 疑問と申し訳なさで胸がいっぱいになりながらもなんとか大役を果たすことができた。テーブルに戻ると、新郎の大学時代の友人たちが「お疲れさまでした!」と労ってくれた。

 プレッシャーから解放され、これまで控えていたビールを腹に流し入れる。

(あとは少しくらいハメを外してもいいだろう)

 ビールで気が大きくなったぼくはアイドルの生写真を取り出し、写真越しに料理を撮影する「フォトイート」に興じることにした。

 すると対面に座っている新郎の大学時代の友人がその様子をじっと見ているではないか。

 おずおずと「乃木坂46、ご存知ですか?」と聞いてみると、「自分は(星野)みなみちゃん推しです」という反応が返ってきた。

「握手会とかには行かれるんですか?」

 彼が聞いてきたので、「握手会よりもライブとか舞台が方が好きですね。この前は『じょしらく』を観に行きました」とぼく。

「自分は在宅ヲタなんですが、今度のクルージングイベントにはどうしても行きたくて、アルバムを自分で3枚、姉貴にも1枚買ってもらって抽選に応募します」

 突如始まった乃木ヲタトークに周りの友人たちはきょとん顔である。

 まだまだヲタ話を続けたかったが、披露宴は締めの新郎父のあいさつとなった。

「息子は何でもひとりで背負い込むところがありますが、これからは××さんが一緒なので頼もしく思います」

 息子の性格を知り尽くしたその言葉に、ぼくもなんとなく救われた気がした。

 足下の引き出物を手に、新郎新婦に見送れて式場を出ると、外はすっかり暗くなっていた。ぼくと青山氏はどちらから言うともなく、別々に駅の方向に向かって歩き出した。

依頼人とは二度と会うことはないと思うけど、乃木ヲタの彼とはどこかで会うかもしれないな)

後編へ続くhttp://bonnieidol.hatenablog.com/entry/2021/01/20/095537