ドラマ『高校教師』(1993年版)レビュー「第2話 嘆きの天使」

 

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羽村先生の婚約者の浮気現場を目撃したあと、土砂降りのなか羽村先生の自宅前でいっぱい待ってた繭。

 

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一転、次の日、羽村先生から受け取ったパン代のなかから自分の生まれた年と同じ「昭和50年」製の10円玉を見つけ、この表情。

 

 

「次第に彼女に振り回されている自分を感じていた。

ただ、...そう。まだこの頃はため息をつけばそれで消えるその程度のことだったけれど」

 

冒頭のナレーションからも分かるように、第2話の主役は繭に、まるで洗濯機の中で回るTシャツのように振り回される羽村先生だ。

 

その色が赤か青か黒かはまだ分からないけど、二宮繭という少女のパーソナルカラーが過剰なほどビビッドなことだけは間違いない。

そして、洗濯物が色映りするかのように、彼女の回りにいるものーーバスケ部のキャプテン、繭の父、羽村先生の婚約者、藤村先生、たちも奇妙に欲望を色めきだたせ羽村先生に向かってゆく。

 

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バスケ部の顧問になった羽村先生。彼を追って繭も入部し、ふたりの関係に嫉妬したバスケ部のキャプテンが腕立て100回という試練を与える。

JAC出身の真田広之なら指立てふせ100万回だって容易いはずだが、ドラマでは63回でギブアップ。

 

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浮気現場を目撃された繭との直接対決の場を設ける羽村先生の婚約者。

「隆夫さんってね、悪いひとじゃもちろんないんだけど、正直言ってとっても退屈なの。ペンギンがどうだとか、原始のスープがなんだとか、そんな話聞いていて楽しいと思う? セックスもとっても幼稚なの」

まったく頭の痛い話だが、ぼくらの無念を晴らすかのように繭は婚約者をエスカレーターから突き落とすのだった...。

愛するひとの思いを汚され、踏みにじられたことがよっぽど悔しかったのだろう。でも、突き落とすことはないのではないかとも思った。

漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』のモンちゃんのように、彼女は明らかにひとが備えている道徳や倫理感というものが欠如しているのではないだろうか。

 

 

羽村先生が腕立てふせをやらされ、繭が婚約者に怪我を負わせたその日の夜、繭は羽村先生に電話する。

テレカが切れ、最後のーーあの10円玉だ!、を投入して繭がリクエストしたのは、婚約者が「退屈」と否定したペンギンの話...。

伏線の張り方、回収の仕方がなんとも見事だ。

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ビートたけしが初めてひとり暮らししたとき、「どうせあのこは家賃なんて払えなくなるに決まってるんですから」と母親がたけしに黙って大家さんに家賃を払っていたのと同様、やはり繭の羽村先生に向ける愛情は母性のそれだ。

 

あの時の僕には、失う物がたくさんあるような気がし、受話器越しの彼女の声が震えていたことに、まだ気づいてはやれなかった」

エンディングのナレーション通り、どんなに回りにもみくちゃにされても、羽村先生の希望だけは処女のパンティーのように淡く、おもしろみがなく、清潔だ。

しかし、それも繭との交わりが色濃くなるにつれて、儚くほつれ破れていくことになるのだが...。