サウスパーク「Vaccination Special」の感想と考察※2021/3/18加筆修正

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 ギャリソン先生やQアノンについては他のかたにお任せするとして(あとで自分でも書くかもしれないが)、ここでは今エピソードで壊れてしまったスタン、カイル、カートマン、ケニーの友情(broship)についての感想と考察に絞る。

 昼休み、カートマンはスタンとカイルを呼び出して相談を持ちかける。
パンデミックは収まってきたけど、オイラたちの友情はギクシャクしてるような気がしてさ。友情のために何かしなきゃいけないんじゃないかってケニーが心配してるんだ。それで話しあったんだけど、ケニーがいいアイデアを思いついたんだ」
 そのアイデアとは、担任のネルソン先生のイスにケチャップを仕掛けて生理がきたように見せるドッキリだった。

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 見事ドッキリは成功し、カートマンとケニーは爆笑するが、ネルソン先生は「命がけで仕事をしているのにこれでも教師はワクチンを打たせてもらえないの?もう耐えられない!」と教室を飛び出し、学校を辞めてしまう。

 カートマンとケニーが仕掛けたドッキリは、これまでサウスパークが繰り返しやってきたさまざまな差別を取り扱ったジョークのように見える。ということは、4人が友情を取り戻す=サウスパークらしくあらゆる問題を笑い飛ばすという意味なのだろうか?
 一方、ネルソン先生はストレートすぎる女性差別的なドッキリを仕掛けた生徒を叱るのではなく、コロナのワクチンを打ってもらえない社会に対して怒りをぶつけている。

 学校を辞めたネルソン先生の代わりに担任になったのは、大統領選に落ちたギャリソン先生だった。ギャリソン先生が担任になるのは死んでもイヤな生徒たち。スタンたち4人はマッケイさんにどうやったらネルソン先生が戻ってきてくれるか相談する。ここでも4人(特にケニー)はまず友情が壊れてしまうのを気にしている。
 マッケイさんは生徒たちの友情やひどいドッキリにあったネルソン先生のことなどどうでもいいようだ。
「もうそんなことを言ってられる状況じゃないんだよね。ネルソン先生が戻ってきてくれる方法はただひとつ。ウォルグリーン(薬局)に忍び込んで教師全員分のワクチンを盗み出してくること」
 

 ネルソン先生やマッケイさんら教師たち(本来はこういった前時代的な差別行為を許さないキャラとして存在してるはずのPC校長含む)、そしてエピソードの最後に「力を持つ者」と取引したギャリソン先生からイスラエルのワクチンを与えられバカ騒ぎするサウスパークの住民たちは、ワクチンを打ってコロナにかからないことが最も大事なことであり、すべての問題はそれで解決すると思っているかのようだ。

 一方、スタン、カイル、カートマンはかつての友情がもう戻らないことを悟ってしまう。その姿は愛情の冷め切った関係の夫婦のようだ。ひとり、まだ友情を信じているケニーには悟られないよう、3人はローテーションを組んでケニーの世話をしていくことを誓う。

スタン「いいかお前ら、うまくやれよ」
カートマン「ああ、オレはもう新しくつるむヤツらを見つけたから」
 そこに通りかかったクライド、ジミー、デイビッドはカートマンをカサボニータ(子供たちに人気のレストラン)に誘う。
「カサボニータだって!?もちろん行く…ちくしょう、週末はケニーの世話があるんだった!」

 

「Vaccination Special」の4人の姿を見てまず思い出したのはs15e7の「You're Getting Old」だ。

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※「You're Getting Old」について書いた記事

「You're Getting Old」では自我の成長に悩むスタンと、いつまでもバカをやり続けるスタンの父親ランディと「もうあなたにはついていけない」と嘆く妻シャロン破局が描かれた。
 親友・カイルとの友情を精算してまで新しい価値観と新しい関係を求めて前に歩み出そうとしたスタンだったが、ランディとヨリを戻したシャロンは息子をこのように教え諭す。
「ランディと話し合って子供たちにとって何が一番いいか分かったわ。人は年をとるものよ。あなたにもいずれ分かるわ、一番大事なのは続けることだって」

 愛情ではなく、子供たちのために夫婦関係を続けることを選んだランディとシャロン
 では、「Vaccination Special」のスタン、カイル、カートマンが失った友情が意味するものとは、今後はローテーションを組んでケニーの面倒を見ていくとはどういう意味なのだろうか?

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 おそらく、ケニーが意味しているのは、これまでサウスパークが扱ってきた人種差別や男女差別、政治、宗教、貧富といったアメリカが抱えている問題だ。カートマンはワクチンを手に入れた後、ネルソン先生に次のように弁解している。
「ワクチンを手に入れたので明日学校に戻ってきてくれませんか。あのドッキリは俺たちのせいじゃないんです。周りの男子たちに煽られたんですよ。生理をジョークにするなんて何歳だよ、って感じですよ」
「俺たちのやったことは不適切でした。女性の股から血が出るなんてジョークのどこがおもしろいんですかね。第一、そんなの差別的じゃないですか」
 カートマンが言うように、あのドッキリは2021年の今では見逃されない女性差別だ。そして、コロナ以前でも以後でも変わらずに社会に居座っている問題でもある。
「お前らのドッキリのせいでオレたちまで嫌われてしまっただろ!」とカイルに対して、カートマンは「お前はドッキリを知っていたのに止めなかったよな。沈黙は暴力だぞ」と繰り返す。
「沈黙は暴力=silence is violence」とは、昨年5月、黒人男性が警察官から暴行を受けて死亡した事件を受けてアメリカで起こったBLM運動のスローガンだ。

 ワクチンを与えられバカ騒ぎするサウスパークの大人たちのように、現実でもいつ収束するか分からないコロナ問題を目の前に、コロナさえなくなればすべての問題が解決するような世の中の気運と感覚に陥ってないだろうか。
 日本人にはアメリカの問題はいまいちピンと来ないかもしれないが、例えば東京オリンピックの問題を「コロナがなかったら」と単純化して考えることがもうできないのと同じような気がする。コロナがあってもなくても東京オリンピックは招致活動の頃から問題だらけだったし、アメリカもコロナ以前からトランプ政権を生み出しまう土壌を抱えていた。
 この原稿を書いている2021年3月18日にも、東京オリンピックの開会式で演出責任者の佐々木宏氏が女性タレントの渡辺直美氏をブタにする演出プランを考えていた、というニュースが報じられていた。
「渡辺直美をブタ=オリンピッグに」東京五輪開会式「責任者」が差別的演出プラン(文春オンライン)
 カートマンではないが、「いつの時代だよ」「それのどこがおもしろいんだよ」と言いたくなる。

 4人はワクチンを打ってバカ騒ぎする大人たちを横目に、別れ間際「これでこれで良かったのかもな」「ああ、これがいちばん良かったんだよ」と諦めにも似た会話を交わしている。
 それでも、スタン、カイル、カートマンは「ちくしょう、ケニーの世話があるんだった!」と帽子を叩きつけながらもケニーの面倒を見続けるようだ。

 クレイグが言うように、コロナ以前でも以後でも我々の周りには未だ解決されていない問題があり続けるのだ。

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あなたが私にくれたもの

 もうすぐバレンタインデーだが、プレゼントというのは難しい。
 相手のセンスや状況、お互いの関係性も考慮しながら、かつサプライズ感がある物。
 本当に欲しい物なら自分で手に入れているだろうから、自分では買うほどじゃないけどあったら嬉しい物が望ましい。ぼくならテレビだろうか。地デジ化以来、自宅でテレビを見ていないので。
 引っ越しや新生活を迎える人にはルンバや食洗機などが良さげだ。
 リリー・フランキー氏はエッセイでプレゼントについてこんなことを言っていた。

「贈り物は思いがけなく貰うのがいい。それを手にした時、相手がどこかで自分のことを気にかけてくれているのだと知る感触がいい」

 そういや、ぼくも先日そんなプレゼントを受け取った。

 女性の友人からLINEで不思議な画像が送られてきた。
 ぱっと見は足の甲から先が写っているだけの写真だが、よく見ると横に親指大の茶色い物体が写っている。
 ピンチでズームしてみる。一見うんこに似ているが、はて?
 1分後、キャプションが送られてきた。
スーパー銭湯のロッカー室にうんこありました。」
 やっぱり!つーか、なぜ?せめて先に言ってほしかった。ズームで見ちゃったよ。
 一応フォローしておくと、彼女はスカトロマニアでもなければ、普段こんなテロ行為を働くような人ではない。インスタに上げている写真はどれもオシャレでセンスの高いものだし、趣味はアナログレコード収集という自分だけの世界を楽しむことのできる人でもある。性格も同世代の友人たちの中でもかなり常識的で、ぼくのような人間とも丁寧に接してくれる広い心の持ち主でもある。
 そんな彼女がなぜ。
 うんこ画像にかなり引きながらその理由を聞いてみると、「前にボニーさんから、銭湯に行ったらおじいさんがうんこを漏らしながら浴室から出てきたという話を聞いたので」とのこと。
 たしかにその話を一席打った記憶はある。「ひどい」「すごいものを見ましたね」と言いながらも最後まで拒絶せずに話に付き合ってくれたのも憶えてる。
 つまり、ぼくの話にインスパイアされ、喜んでくれるとばかり思ってうんこの写真を撮り、送ってきたらしい。買ったばかりのiPhone12 Pro Maxで。
 怪物を生み出してしまったフランケンシュタイン博士の気分だ。
 たしかにぼくの普段の言動やセンスを鑑みてくれた上での画像だったのは分かる。その気持ちは嬉しい。サプライズ感も申し分ない。
 かと言ってだ。
「ぼくでもうんこの写真なんて撮りませんよ」
 ぼくの言葉に彼女はいたく心外そうだった。たしかにきっかけを作ったのはこちらなので、ぼくの方から謝っておいた。

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この前買ったでっかいダンゴムシのフィギュア

 

実録!サクラを見る会〜代理出席バイト体験ルポ(後編)

 (前編はこちら

 月曜朝とはいえ、京葉線の下り電車は十分空いていた。

 きのうに続き、結婚式のサクラ2Daysの2日目である。

 昨夜、H市から電車を乗り継いで帰宅したのは0時を過ぎ。それから代理出席業者からやっと送られてきたスピーチ原稿に目を通して、布団に入ったのは明け方近くだった。さすがに連日の長距離の移動はこたえる。

 座席に腰を下ろし、改めて本日の依頼内容を確認する。

 依頼主は、新郎の谷本拓海(仮名)・30歳。職業は美容師だ。招待者側でわれわれの存在を知るのは彼のみである。

 先日の代理出席業者Bとの面談時には「新郎の友人役」としか決まっていなかったわれわれの役柄だが、どうやら依頼主との綿密な打ち合わせの結果、「大学時代のフットサルサークルの友人」に落ち着いたようだ。依頼主の「大学に3年まで在籍して中退」という経歴から導き出したのだろう。

 依頼主の年齢はぼくより4つ下だが、大学のサークル仲間なら許容範囲だろう。少なくとも、美容師仲間よりは「ぽい」役柄に思う。

 依頼主のプロフィール欄には、式中は大学時代の愛称である「タク」と呼んでください、とある。よっしゃ、任せとけ。

 気になるのは、タクがB社に依頼してきた友人の数である。その数、20人。最初に依頼内容を聞いたときは、普通の勤め人が参加しづらい月曜日がその理由かと思っていたが、それにしたって20人は多すぎる。

 全80名出席の式ということなので1/4がサクラだ。フットサルチームどころか、田舎の分校なら全校生徒の数である。

 人数が多いため、本日われわれサクラは10人2チームに分かれて行動し、披露宴では10人掛けのテーブル2つを占拠するという。

 われわれサクラに渡るギャラは1人7千円なので、依頼人は代理出席業者に1万円〜2万円は払っていると思われる。それが20人分ということは、最低20万円、最大で40万円の出費である。

 

 電車を降りると外は生憎の雨模様だった。

 待ち合わせ場所である駅前ホテルのロビーには、いかにもこれから結婚式に出席する格好をした男女数人がぽつりぽつりと一定の間隔を置いて立っていた。ほぼ間違いなく同業者だと思うが、まさかこちらから「サクラの方ですか」と聞くわけにもいかない。まちがっていた場合、取り返しのつかないことになりかねないからだ。

 本日の引率役であるB社の田村氏の姿が見えたところで、やっとロビーを覆っていた緊張が解けた。やはり、周りの男女は皆、同じチームのサクラたちだった。

 田村氏から空のご祝儀袋を受け取り、チームごとにシャトルバスに乗り込む。

 バスの中から歓声が上がる。式場はアメリカ西海岸風の、それはそれはオシャレな建物だった。

 式場に到着し、受付で芳名帳に各々与えられた名前とウソ住所を記し、空のご祝儀袋を渡す。のちに田村氏に聞いたところ、この受付スタッフ2人もサクラだったという。ご祝儀袋が空だったのはそういうことだったのか。

 挙式時間までロビーで昨夜送られてきたスピーチ原稿に目を通す。

 きのうに続いての大役だが、まったくといっていいほど緊張していない。本番では原稿を見ながらのスピーチでも構わないということなのでむしろきのうより気楽である。

 ただ、大いに不安だ。田村氏が送ってきたこのスピーチ原稿の内容にだ。

 おそらくこの原稿は田村氏が依頼人から大学時代のエピソードを聞き出した上で作成したのだろう。その箇所が特にヒドいのだ。

“タクとはお互い社会人になってからは会えなくなってしまって、今日久しぶりに会いましたが、昔は細くて一番のイケメンでした。

 目鼻立ちがはっきりしているので学園祭の時の女装コンテストでは見事にタクが優勝を果たしました。女子だけではなく、男からもモテモテで、よく道で男からナンパされていたほどです。

 あ、あと大学時代の屋上でのエピソードがあるのですが、ここでは言えないので違う形で言いたいと思います”

 葬式の弔辞とまちがって送られてきたのかと思った。

 なんだろう、この着地点の定まっていない文章は。これをそのまま読んだら事故になりかねないレベルである。だが、本番で勝手に内容を変えたりしたらあとで田村氏に叱られるかもしれない。この局面を乗り切るにはどうしたらいいのだろう。

「もしかして、スピーチするんですか?」

 原稿を手に頭を抱えていると、同じチームの女性のサクラが話しかけてきた。

「それがまったく緊張しないんですよ。余興でカラオケを歌ったきのうの結婚式のほうが緊張しました」

 その言葉を聞いた別の女性が会話に割り込んできた。

「昨日も別の友達の結婚式だったんですか? 珍しいですけど結婚シーズンですもんね」

 ぼくの発言が代理出席業の規約である秘密厳守に觝触していると釘を刺し、会話を繕ったつもりなのだろう。

(こっちはちゃんと他の出席者との距離を考えて話してるんだよ。お前は学級委員か)

 意識の高すぎるサクラにムッとしながらもとりあえず話を合わせておく。今日は出席者だけでなく、同業者にも注意したほうがよさそうだ。

(4)

 挙式はオーシャンビューのチャペルで行われた。

 いよいよ、ぼくらの依頼主である新郎の入場である。

(自分の結婚式にサクラを20人も動員する男とは一体どんなヤツだろう)

 職業が美容師ということでチャラい感じの外見を想像していたのだが、依頼人は緊張と喜びが入り交じった誠実な顔をしている。

 結婚指環の交換、宣誓などが済むと挙式後には会場外でブーケトスが行われた。依頼メールにあったように積極的にブーケトスに参加する女性のサクラたち。タイトで生地の少ないドレス姿の女性を見るのも結婚式における楽しみのひとつである。

 披露宴会場に移動し、サクラ一同、新郎友人席に着く、ぼくの隣は代理出席業者の田村氏だった。

「きのうの結婚式はどうだった」

 声を潜めて田村氏が聞いてきた。

「青山さんが歌が上手くて助かりました」

「青山君ねえ。彼は問題児だから、ちょっと心配だったんだよ。前の結婚式では飲み過ぎて吐いたことまであってさ」

 やはり問題児だったか。ゲロ事件はテーブルが会場の隅の方だったことが幸いして大事にならずに済んだらしい。

 きのうと同様、乾杯発声は新郎の上司だ。マイクの前に立つや、お辞儀をしながらマイクに頭を「ゴンっ」とぶつけるビートたけし風ギャグをかました。この上司のおかげで披露宴は終始和やかな空気で進行していった。

 全80名出席の規模もそうだが、この披露宴会場やプログラムひとつひとつの演出を見てもきのうのHでの結婚式に比べるとカネがかかっていることが分かる。

 たとえば、ただのオードブルに「サーモンの軽い薫製と天使の海老のマリアージュウイキョウのタブレ、オレンジの香りを添えて」という名前をつけたり、いちいち洒落臭いのだ。

 また、新郎新婦が美容師をしているからか、お色直しが2回もあった。

「本日の新婦様のヘアメイクは新郎様自らが手がけられたものです」

 司会者の説明に同僚の女性陣も「ステキ〜」「いいなあ」と歓声を上げる。新郎新婦がお色直しから戻ってくるたびに高砂に出向き、記念写真を撮るサクラ一行。本日、サクラ全員に与えられた任務はこの記念撮影くらいだ。

 なるほど。男にとって結婚式とは自分のためではなく嫁さんを満足させるため、と聞いたことがあるが、依頼人にしてみれば、われわれサクラの存在というのは、オーシャンビューのチャペルや2回のお色直しと同じようなものかもしれない。嫁さんを満足させる結婚式を演出するためには20人の友人役というキャストがどうしても必要だったのだ。

 ただ、友人代表スピーチという大役までサクラに任せるということは、依頼人にはこの中に本当の友達と呼べる人間はひとりもいないのかもしれない。なんという孤独だろう。

 宴中、新郎新婦の誕生から馴れ初めまでを思い出の写真で構成したムービーが流れた。当然、われわれサクラは一瞬たりとも登場しなかった。

 同業者しかいないテーブルとあって周りに気を使うことなくタダ飯とタダ酒を楽しむサクラたち。ぼくも牛フィレ肉のステーキには赤ワインをリクエストする余裕ぶりである。

 それでも一度だけわれわれのテーブルに緊張が走った瞬間があった。新郎の母親がお酌に回ってきたのだ。

 新郎母親の「こちらの方々はどういった関係だったかしら?」という問いかけに、サクラのひとりが「大学時代のサークル仲間です」と返す。

「そうだったの。あのコったら大学時代のことは何にも話さないから、友達がいたなんて知らなかった。今日はありがとうございます」

 目を潤ませながら息子について話す母親の姿に胸が熱くなった。

 新郎新婦が最後のお色直しを終えて再入場すると、いよいよぼくの出番がやってきた。

「ではここでお祝いのスピーチのお時間です。まずは新郎様の大学時代のご友人、○○様でございます」

 サクラたちの「がんばれー」という声を背に受けステージに向かう。

 新郎新婦に深々と頭を下げ、続いて正面を向き、マイクに頭をゴンっ!

 どっと湧く会場。すかさず新郎上司から「パクったな!」というツッコミが入る。

 スピーチ自体は正味3分ほどだったろうか。その後は笑い声がくすりとも起こらなかった。

 テーブルに戻ると、田村氏が「まさか、やるとは思わなかったよ」と笑いながらビールを注いでくれた。「なんで友人代表のスピーチがぼくになったんですか?」と聞いてみると、新しくスピーチできる人を育てたかったら、という答えだった。

 ステージに目をやると、ぼくの次に登場した新婦側の友人までもが「お辞儀しながら頭をマイクにゴン!」をしているではないか。

 新郎上司から始まったギャグリレーだったが、ぼくが間に入ってやらなければ3連発はなかったはず。司会者からも「新郎新婦共に愉快なご友人でございました」とお褒めの言葉をもらい大満足である。

 

 披露宴はいよいよクライマックスへ。新婦が両親への感謝の手紙を読み上げる場面では会場からはすすり泣きが漏れ出した。横を見ると、同じテーブルのサクラたちまで泣いているではないか。

 実はこの時ぼくも少しうるっと来ていていたのである。特に、新郎新婦が両親に生まれたときの体重と同じ重さのウェディングペアをプレゼントする演出なんて、誰が考えたか知らないが掛け値なしに感動モノである。

(あれほど嫌っていた結婚式で感動してしまうなんて。しかも赤の他人の)

 いや、赤の他人の結婚式だからこそ余計な情報や思い入れなしに、まるで映画を見るように素直に感動してしまうのかもしれない。会費タダだし。

 披露宴は依頼人の誠意溢れる謝辞で締められた。出口で出席者を見送る依頼人に「おめでとう!」と声をかけると、「マジで助かったよ。ありがとう」という言葉が返ってきた。

 式後は再び駅前ホテルのロビーに集合した。田村氏がサクラ全員から席次表と名札、引き出物から足がつくカタログギフトを回収し、バイト代を支給して解散となった。

 それにしても、新郎は2次会に20人の友人たちが一人も出席していないことをどう説明するのだろうか。もしかしたら2次会には別の会社のサクラが?

(了)

実録!サクラを見る会〜代理出席バイト体験ルポ(後編)

 (前編はこちら

 月曜朝とはいえ、京葉線の下り電車は十分空いていた。

 きのうに続き、結婚式のサクラ2Daysの2日目である。

 昨夜、H市から電車を乗り継いで帰宅したのは0時を過ぎ。それから代理出席業者からやっと送られてきたスピーチ原稿に目を通して、布団に入ったのは明け方近くだった。さすがに連日の長距離の移動はこたえる。

 座席に腰を下ろし、改めて本日の依頼内容を確認する。

 依頼主は、新郎の谷本拓海(仮名)・30歳。職業は美容師だ。招待者側でわれわれの存在を知るのは彼のみである。

 先日の代理出席業者Bとの面談時には「新郎の友人役」としか決まっていなかったわれわれの役柄だが、どうやら依頼主との綿密な打ち合わせの結果、「大学時代のフットサルサークルの友人」に落ち着いたようだ。依頼主の「大学に3年まで在籍して中退」という経歴から導き出したのだろう。

 依頼主の年齢はぼくより4つ下だが、大学のサークル仲間なら許容範囲だろう。少なくとも、美容師仲間よりは「ぽい」役柄に思う。

 依頼主のプロフィール欄には、式中は大学時代の愛称である「タク」と呼んでください、とある。よっしゃ、任せとけ。

 気になるのは、タクがB社に依頼してきた友人の数である。その数、20人。最初に依頼内容を聞いたときは、普通の勤め人が参加しづらい月曜日がその理由かと思っていたが、それにしたって20人は多すぎる。

 全80名出席の式ということなので1/4がサクラだ。フットサルチームどころか、田舎の分校なら全校生徒の数である。

 人数が多いため、本日われわれサクラは10人2チームに分かれて行動し、披露宴では10人掛けのテーブル2つを占拠するという。

 われわれサクラに渡るギャラは1人7千円なので、依頼人は代理出席業者に1万円〜2万円は払っていると思われる。それが20人分ということは、最低20万円、最大で40万円の出費である。

 

 電車を降りると外は生憎の雨模様だった。

 待ち合わせ場所である駅前ホテルのロビーには、いかにもこれから結婚式に出席する格好をした男女数人がぽつりぽつりと一定の間隔を置いて立っていた。ほぼ間違いなく同業者だと思うが、まさかこちらから「サクラの方ですか」と聞くわけにもいかない。まちがっていた場合、取り返しのつかないことになりかねないからだ。

 本日の引率役であるB社の田村氏の姿が見えたところで、やっとロビーを覆っていた緊張が解けた。やはり、周りの男女は皆、同じチームのサクラたちだった。

 田村氏から空のご祝儀袋を受け取り、チームごとにシャトルバスに乗り込む。

 バスの中から歓声が上がる。式場はアメリカ西海岸風の、それはそれはオシャレな建物だった。

 式場に到着し、受付で芳名帳に各々与えられた名前とウソ住所を記し、空のご祝儀袋を渡す。のちに田村氏に聞いたところ、この受付スタッフ2人もサクラだったという。ご祝儀袋が空だったのはそういうことだったのか。

 挙式時間までロビーで昨夜送られてきたスピーチ原稿に目を通す。

 きのうに続いての大役だが、まったくといっていいほど緊張していない。本番では原稿を見ながらのスピーチでも構わないということなのでむしろきのうより気楽である。

 ただ、大いに不安だ。田村氏が送ってきたこのスピーチ原稿の内容にだ。

 おそらくこの原稿は田村氏が依頼人から大学時代のエピソードを聞き出した上で作成したのだろう。その箇所が特にヒドいのだ。

“タクとはお互い社会人になってからは会えなくなってしまって、今日久しぶりに会いましたが、昔は細くて一番のイケメンでした。

 目鼻立ちがはっきりしているので学園祭の時の女装コンテストでは見事にタクが優勝を果たしました。女子だけではなく、男からもモテモテで、よく道で男からナンパされていたほどです。

 あ、あと大学時代の屋上でのエピソードがあるのですが、ここでは言えないので違う形で言いたいと思います”

 葬式の弔辞とまちがって送られてきたのかと思った。

 なんだろう、この着地点の定まっていない文章は。これをそのまま読んだら事故になりかねないレベルである。だが、本番で勝手に内容を変えたりしたらあとで田村氏に叱られるかもしれない。この局面を乗り切るにはどうしたらいいのだろう。

「もしかして、スピーチするんですか?」

 原稿を手に頭を抱えていると、同じチームの女性のサクラが話しかけてきた。

「それがまったく緊張しないんですよ。余興でカラオケを歌ったきのうの結婚式のほうが緊張しました」

 その言葉を聞いた別の女性が会話に割り込んできた。

「昨日も別の友達の結婚式だったんですか? 珍しいですけど結婚シーズンですもんね」

 ぼくの発言が代理出席業の規約である秘密厳守に觝触していると釘を刺し、会話を繕ったつもりなのだろう。

(こっちはちゃんと他の出席者との距離を考えて話してるんだよ。お前は学級委員か)

 意識の高すぎるサクラにムッとしながらもとりあえず話を合わせておく。今日は出席者だけでなく、同業者にも注意したほうがよさそうだ。

(4)

 挙式はオーシャンビューのチャペルで行われた。

 いよいよ、ぼくらの依頼主である新郎の入場である。

(自分の結婚式にサクラを20人も動員する男とは一体どんなヤツだろう)

 職業が美容師ということでチャラい感じの外見を想像していたのだが、依頼人は緊張と喜びが入り交じった誠実な顔をしている。

 結婚指環の交換、宣誓などが済むと挙式後には会場外でブーケトスが行われた。依頼メールにあったように積極的にブーケトスに参加する女性のサクラたち。タイトで生地の少ないドレス姿の女性を見るのも結婚式における楽しみのひとつである。

 披露宴会場に移動し、サクラ一同、新郎友人席に着く、ぼくの隣は代理出席業者の田村氏だった。

「きのうの結婚式はどうだった」

 声を潜めて田村氏が聞いてきた。

「青山さんが歌が上手くて助かりました」

「青山君ねえ。彼は問題児だから、ちょっと心配だったんだよ。前の結婚式では飲み過ぎて吐いたことまであってさ」

 やはり問題児だったか。ゲロ事件はテーブルが会場の隅の方だったことが幸いして大事にならずに済んだらしい。

 きのうと同様、乾杯発声は新郎の上司だ。マイクの前に立つや、お辞儀をしながらマイクに頭を「ゴンっ」とぶつけるビートたけし風ギャグをかました。この上司のおかげで披露宴は終始和やかな空気で進行していった。

 全80名出席の規模もそうだが、この披露宴会場やプログラムひとつひとつの演出を見てもきのうのHでの結婚式に比べるとカネがかかっていることが分かる。

 たとえば、ただのオードブルに「サーモンの軽い薫製と天使の海老のマリアージュウイキョウのタブレ、オレンジの香りを添えて」という名前をつけたり、いちいち洒落臭いのだ。

 また、新郎新婦が美容師をしているからか、お色直しが2回もあった。

「本日の新婦様のヘアメイクは新郎様自らが手がけられたものです」

 司会者の説明に同僚の女性陣も「ステキ〜」「いいなあ」と歓声を上げる。新郎新婦がお色直しから戻ってくるたびに高砂に出向き、記念写真を撮るサクラ一行。本日、サクラ全員に与えられた任務はこの記念撮影くらいだ。

 なるほど。男にとって結婚式とは自分のためではなく嫁さんを満足させるため、と聞いたことがあるが、依頼人にしてみれば、われわれサクラの存在というのは、オーシャンビューのチャペルや2回のお色直しと同じようなものかもしれない。嫁さんを満足させる結婚式を演出するためには20人の友人役というキャストがどうしても必要だったのだ。

 ただ、友人代表スピーチという大役までサクラに任せるということは、依頼人にはこの中に本当の友達と呼べる人間はひとりもいないのかもしれない。なんという孤独だろう。

 宴中、新郎新婦の誕生から馴れ初めまでを思い出の写真で構成したムービーが流れた。当然、われわれサクラは一瞬たりとも登場しなかった。

 同業者しかいないテーブルとあって周りに気を使うことなくタダ飯とタダ酒を楽しむサクラたち。ぼくも牛フィレ肉のステーキには赤ワインをリクエストする余裕ぶりである。

 それでも一度だけわれわれのテーブルに緊張が走った瞬間があった。新郎の母親がお酌に回ってきたのだ。

 新郎母親の「こちらの方々はどういった関係だったかしら?」という問いかけに、サクラのひとりが「大学時代のサークル仲間です」と返す。

「そうだったの。あのコったら大学時代のことは何にも話さないから、友達がいたなんて知らなかった。今日はありがとうございます」

 目を潤ませながら息子について話す母親の姿に胸が熱くなった。

 新郎新婦が最後のお色直しを終えて再入場すると、いよいよぼくの出番がやってきた。

「ではここでお祝いのスピーチのお時間です。まずは新郎様の大学時代のご友人、○○様でございます」

 サクラたちの「がんばれー」という声を背に受けステージに向かう。

 新郎新婦に深々と頭を下げ、続いて正面を向き、マイクに頭をゴンっ!

 どっと湧く会場。すかさず新郎上司から「パクったな!」というツッコミが入る。

 スピーチ自体は正味3分ほどだったろうか。その後は笑い声がくすりとも起こらなかった。

 テーブルに戻ると、田村氏が「まさか、やるとは思わなかったよ」と笑いながらビールを注いでくれた。「なんで友人代表のスピーチがぼくになったんですか?」と聞いてみると、新しくスピーチできる人を育てたかったら、という答えだった。

 ステージに目をやると、ぼくの次に登場した新婦側の友人までもが「お辞儀しながら頭をマイクにゴン!」をしているではないか。

 新郎上司から始まったギャグリレーだったが、ぼくが間に入ってやらなければ3連発はなかったはず。司会者からも「新郎新婦共に愉快なご友人でございました」とお褒めの言葉をもらい大満足である。

 

 披露宴はいよいよクライマックスへ。新婦が両親への感謝の手紙を読み上げる場面では会場からはすすり泣きが漏れ出した。横を見ると、同じテーブルのサクラたちまで泣いているではないか。

 実はこの時ぼくも少しうるっと来ていていたのである。特に、新郎新婦が両親に生まれたときの体重と同じ重さのウェディングペアをプレゼントする演出なんて、誰が考えたか知らないが掛け値なしに感動モノである。

(あれほど嫌っていた結婚式で感動してしまうなんて。しかも赤の他人の)

 いや、赤の他人の結婚式だからこそ余計な情報や思い入れなしに、まるで映画を見るように素直に感動してしまうのかもしれない。会費タダだし。

 披露宴は依頼人の誠意溢れる謝辞で締められた。出口で出席者を見送る依頼人に「おめでとう!」と声をかけると、「マジで助かったよ。ありがとう」という言葉が返ってきた。

 式後は再び駅前ホテルのロビーに集合した。田村氏がサクラ全員から席次表と名札、引き出物から足がつくカタログギフトを回収し、バイト代を支給して解散となった。

 それにしても、新郎は2次会に20人の友人たちが一人も出席していないことをどう説明するのだろうか。もしかしたら2次会には別の会社のサクラが?

(了)

実録!サクラを見る会〜代理出席バイト体験ルポ(前編)

(1)

 代理出席業という仕事を知ったのはたまたま聞いた深夜ラジオがきっかけだった。「変わったバイト体験」というテーマで若手芸人が次のようなエピソードを披露した。

「結婚式で新郎新婦の出席人数のバランスが合わないから穴埋めをするバイトがあるんですよ。3時間くらいの拘束でバイト代は1万円。フルコースの料理も食べられるし、帰りには引き出物も貰えます」

 その若手芸人は結婚式に新婦側の依頼で親族役として出席したのだが、同じテーブルの出席者同士で新婦の思い出話などは一切出なかったという。彼はその異様な雰囲気についてこう振り返った。

「もしかしたらテーブル全員がサクラだったかも」

 このエピソードにかなり惹かれた。 

 元々ぼくは結婚式にいい印象を持っていない。

 近しい友人ならご祝儀に3万円は包まなきゃいけないし、挙げ句に見せられるのは友人の友人によるくだらない余興、新郎新婦の馴れ初めを描いたつまらないムービー、他人のキス現場などなどだ

 ぼくにとってこれほどまで酒がマズくなるプログラムはないし、冗談抜きに式中に噴飯どころか憤死するのでは、と思ったこともある。そして、そんなことを公言していたら結婚ラッシュの世代だというのにまったく結婚式のお呼びがかからなくなってしまった。

 そんな折、ラジオで結婚式という虚飾の裏にある悲哀とマヌケさを炙り出すような仕事を耳にしたのである。

 さっそくインターネットで「結婚式 代理出席 スタッフ募集」と検索してみると、たしかにそれらしき会社のホームページがいくつもヒットする。そのうちの数社に応募フォームからスタッフ登録をした。約ひと月後、代理出席業者のBから仕事の依頼メールが届いた。

「5月の最終日曜日にH市で予定している結婚式に代理出席をお願いしたい。役柄は依頼人様である新郎の友人2名のうちのひとりで、2人には披露宴の余興としてカラオケを歌ってもらいたい。報酬は7千円」

 続けて、引き受けてくれるなら余興のカラオケの曲を、秦基博ひまわりの約束」、Greeen「キセキ」、ウルフルズ「バンザイ」から選んでほしい、とある。

 待ち望んでいた結婚式のサクラバイトだ。しかも特別ミッション付きだ。歌にはまったく自信がないが、何とかなるだろう。すぐに快諾のメールを返信した。

 それから10日も経たずにBからまた仕事の依頼が来た。

「5月末の月曜日、S市での結婚式に20名のスタッフが必要なのでぜひ代理出席をお願いしたい」

 日付を確認するとこの案件はH市での結婚式翌日である。つまりぼくは2日連続で赤の他人の結婚式に出席することになる。こちらの依頼も承諾すると、折り返し、Bから事前面談の案内メールが届いた。

 代理出席業者Bの田村氏(仮名)との面談は池袋の喫茶店で行われた。田村氏は30代中頃でスーツにネクタイ姿、清潔な髪型をしており、物腰も含めて若手営業マンという雰囲気だ。

 まず代理出席スタッフとしての注意事項の説明を受ける。

一、代理出席の内容をネットや友人に他言してはいけない

一、結婚式の間、代理出席業について話をしてはいけない

一、結婚式の出席者と連絡先、個人情報を交換してはいけない

一、酒を飲んでもいいが泥酔しないこと

一、仕事の依頼メール、代理出席中に撮った写真は必ず削除する

 まあ、当たり前のことである。要は秘密厳守ということだ。続いて、後から依頼が来たS市での結婚式に関する打ち合わせとなった。

「新郎である依頼者様はとりあえず友人役を男女合わせて20人用意してほしいとのことです。高卒で現在美容師をされているようなので、我々の役柄は高校時代の友人か美容師仲間か幼なじみのどれかになるでしょうね。ただ、美容師さんというのは外見が独特の方が多いのでそれはやめておきましょうと相談しています。できれば高校時代の友人か幼なじみに持っていきたいですね」

 なるほど、結婚式の日取りが月曜日というのは不思議だったが、美容師なら納得である。

 田村氏によると、結婚式の仕事は基本的には土日に集中しているが、たまに今回のような平日に依頼が来るという。依頼人が美容師なら月曜日、不動産屋なら水曜日といった具合だ。

 また、「ジューンブライド」と言われているように6月が結婚式の人気シーズンかと思いきや、実際は9月〜11月の秋に集中しているという。

 仕事の打ち合わせが一段落ついたところでこちらから代理出席業に関する質問をしてみた。

Q「依頼人は交友関係で足りない人材を求めてくるわけですか」

「ほとんどが見栄ですね。向こうが50人招待するからこちらもせめて40人は用意しようとか新郎新婦の親御さんが頼みに来ることもありますよ。お母さんが『娘が友達少ないのよ。5人くらい用意してくれませんか』なんて」

Q「友人以外の役をお願いされることもあるんですか」

「たまにありますよ。両親と絶縁状態だったり、結婚を反対されていたりする場合はお父さん、お母さん役を用意します。一度、本当のご両親が結婚式に顔を見せないよう、実家を張り込みしたこともあります」

 また、家庭の事情や代理出席の存在を知っているのは依頼人ひとりというケースがほとんどで、当日は結婚相手やその親族にも注意しなければならないという。

「両家の親族が初顔合わせするのは結婚式当日になるわけです。結婚式後に、相手親族から『なぜ今まで顔を見せなかったんだ』と詰め寄られることもあります。そのため式が済んだら用意しているタクシーに飛び乗って逃げるように帰ります」

 面談中、田村氏の口から最初の依頼であるH市での結婚式に関する話題は一度も出なかった。20人を動員するS市での結婚式に手一杯でそれどころじゃない、という感じだ。それならぼくも初日の結婚式は予行演習のつもりで気楽に臨むことにしよう。

 面談終了間際、田村氏は「S市での結婚式で友人代表のスピーチを頼まれたらお願いできますか? もちろん、原稿はこちらで用意します」と聞いてきた。

 もしそうなったら2日連続で赤の他人の結婚式に出席し、余興、スピーチという特別ミッションを経験することになる。もちろん、承諾した。

 面談から数日後、田村氏からS市での結婚式で新郎の友人代表スピーチをお願いするメールが届いた。

(2)

 北関東の内陸部にあるH市。駅を出ると、友人の新たな門出を祝っているかのような五月晴れの空が広がっていた。

 会場のウェディングレストランはすぐに見つかった。集合時刻5分前になったところで、リーダーの青山氏(仮名)に到着を伝える電話を入れる。駅の方向からスマホを耳に当てて歩いてくるのがどうやら青山氏のようだ。

 軽いあいさつを交わし、青山氏から3万円入りのご祝儀袋と報酬の入った封筒を受け取る。準備が整ったところで、

(では、そろそろ行きますか)

 青山氏とアイコンタクトを交わし会場入りする。

 受付スタッフにご祝儀袋を渡し、芳名帳に記帳。名前はなんとか憶えてきたが、住所はスマホのメモを見ながら書いた。

 挙式が始まるまで、ロビー片隅で席次表を見ながら青山氏と本日の「設定」を確認する。

 本日、われわれは新郎の高校時代の友人役である。新郎とは高校は違ったが、この街にある寿司屋でバイト仲間として知り合い、今でも年に数回会う仲である。

「けっこう田舎ですよね。寿司屋って本当にあるんですかね」

 ウェルカムフードの焼き菓子をほおばりながら青山氏が聞いてきた。昨夜ググってみたところ、この街には寿司チェーン店が一軒だけあった。われわれが高校時代にバイトしていたのはおそらくその店だろう。

 初めて会う友人の結婚式に出席し、しかも余興という大役を任され、幾分ナーバスになっていたぼくと比べ、代理出席業経験者の青山氏からは余裕が感じられた。

「依頼メールには高砂にあいさつに行く必要はないってあるんで楽勝ですね。肉体労働よりは全然イイですよ」

「歌さえなければいいんですけどね…」

「ハモリは任せてください!」

 リーダーの頼もしさというより、能天気なのである。そうかと思えば、「そろそろ挙式が始まるのでこれからはタメ口でいきますか。でも、昔のバイト仲間が久しぶりにあったら敬語でも問題ないか」と妙に冷静なところもある。

 青山氏の実年齢はぼくより2つ上ということなので(それにしては落ち着きがないが)、バイト先の先輩後輩という間柄にした。

 挙式の時刻となり、ロビーから中庭に移動する。神仏に結婚の誓いをするのではなく、ゲストに結婚の証人となってもらう人前式というスタイルのようだ。

 入場口から初めて会う高校時代の友人が姿を現した。

「本日お呼びさせていただいた皆さまは、私たちが普段お世話になっている本当に大切な方々ばかりです」

 人前式に続いて行われた結婚披露宴は、われわれの依頼人である新郎のウェルカムスピーチから始まった。

 新郎は近くで見れば見るほど爽やかでハンサムな顔立ちをしていた。とても冒頭のあいさつのようなウソをつくような人物には見えない。

 われわれに用意されたのは高砂から最前列中央のテーブルだ。ぼくと青山氏の以外には、人前式で新郎側の立会人として誓約書に署名をした大学時代の友人を含む3名が座っている。

 依頼人がサクラを呼んだ事情は席次表を見てすぐに察しがついた。友人席が新婦側が3席なのに比べ、新郎側はぼくらのいる1席しかないのである。その1席が大学時代の友人3人だけというのはさすがに体裁が悪いと思ったのだろう。

 依頼人の友人が少ないのは、高校は隣の県に越境入学したというプロフィールが影響しているのかもしれない。

「新婦は見るからに床上手ですね」

 依頼人の事情に頭を巡らせているぼくをよそに、青山氏は披露宴が始まるやいよいよ調子に乗り始めた。

 先ほどなどは会場の女性スタッフが余興の段取りについて確認に来るや、「お姉さん、美人ですね」とナンパじみたことまでしていた。この時点でぼくは青山氏を心の中では「このバカ」と呼んでいた。

 ただ、この後控えている余興という大役にビビってひたすらソフトドリンクで我慢しているぼくよりも、周りに注がれるままにビールやスパークリングワインを飲んでいる彼のほうがハレの場にはふさわしい振る舞いなのかもしれない。

 新婦がお色直しで中座し、われわれのテーブルからも大学時代の友人が離れたタイミングを見計らって依頼主である新郎があいさつにやってきた。

「ごめんなさい、今日はありがとうございます」

 明らかに古くからの友人にする態度ではではない。われわれが心配になって様子を見にきたようだ。

「○○ちゃん、今日はおめでとう!」

 彼の真意が分からなかったので、とりあえず依頼メールにあったように学生時代のあだ名で呼び、ハイテンションで祝福すると、

「あんまり無理しないでいただいて…」

 そう言い残し、依頼人は不安そうな顔のままテーブルを離れていった。

 

 披露宴開始から1時間半が経過した。ウェイターがテーブルに高級和三盆入り和風ティラミスを置き終えるや、司会者がこれより余興タイムであることを告げる。いよいよか。

「それではご紹介しましょう。新郎の高校時代からのご友人のお二人です。どうぞよろしくお願いします」

 ステージに上がり、マイクを手にする。歌に入る前に新郎新婦にお祝いの言葉を一言ずつだ。

 まずは青山氏。

「○○ちゃん、××さん、ご結婚おめでとうざいます! いつまでも幸せな家庭を築けていけるように気持ちを込めて歌わせてもらいます。よろしくお願いします!」

 なぜか半笑いだが、気持ちは伝わった。

 そしてぼく。

「○○ちゃん、××さん、おめでとうございます。幸せな家庭を築いてください。おめでとうございました!」

 なぜか過去形だが、気持ちは伝わったはず。

「それでは歌を披露してもらいましょう。ウルフルズで『バンザイ』です」

 会場に短いイントロが鳴り響く。

「♪イエーイ…」

 青山氏は出番が来るまでは、「自分はハモリをやるのでメインボーカルはお任せします」「ダンス担当で」「手拍子やります」とやる気のない発言を繰り返していたが、実際はかなり歌が上手かった。ぼくは安心して途中からマイクのスイッチを切った。

(それにしても)

 会場にいる人たちは安くないご祝儀を払って赤の他人のカラオケをまるまる1曲聞かせられているのである。他にふさわしいやり方はなかったのだろうか。

 疑問と申し訳なさで胸がいっぱいになりながらもなんとか大役を果たすことができた。テーブルに戻ると、新郎の大学時代の友人たちが「お疲れさまでした!」と労ってくれた。

 プレッシャーから解放され、これまで控えていたビールを腹に流し入れる。

(あとは少しくらいハメを外してもいいだろう)

 ビールで気が大きくなったぼくはアイドルの生写真を取り出し、写真越しに料理を撮影する「フォトイート」に興じることにした。

 すると対面に座っている新郎の大学時代の友人がその様子をじっと見ているではないか。

 おずおずと「乃木坂46、ご存知ですか?」と聞いてみると、「自分は(星野)みなみちゃん推しです」という反応が返ってきた。

「握手会とかには行かれるんですか?」

 彼が聞いてきたので、「握手会よりもライブとか舞台が方が好きですね。この前は『じょしらく』を観に行きました」とぼく。

「自分は在宅ヲタなんですが、今度のクルージングイベントにはどうしても行きたくて、アルバムを自分で3枚、姉貴にも1枚買ってもらって抽選に応募します」

 突如始まった乃木ヲタトークに周りの友人たちはきょとん顔である。

 まだまだヲタ話を続けたかったが、披露宴は締めの新郎父のあいさつとなった。

「息子は何でもひとりで背負い込むところがありますが、これからは××さんが一緒なので頼もしく思います」

 息子の性格を知り尽くしたその言葉に、ぼくもなんとなく救われた気がした。

 足下の引き出物を手に、新郎新婦に見送れて式場を出ると、外はすっかり暗くなっていた。ぼくと青山氏はどちらから言うともなく、別々に駅の方向に向かって歩き出した。

依頼人とは二度と会うことはないと思うけど、乃木ヲタの彼とはどこかで会うかもしれないな)

後編へ続くhttp://bonnieidol.hatenablog.com/entry/2021/01/20/095537

【近々の仕事】12/14発売『エキサイティングマックス! Special」連載ページ

12月14日発売、『エキサイティングマックス! Special 153』(楽楽出版)に、連載ページ「この地下アイドルがすごい!!」を書いております。

 

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今回(第20回)は、“エンタメ系ロックアイドル”必殺エモモモモ7さんを紹介させていただきました。メンバーの“歌担当の”みつきさん&“おっぱい担当”のゆうかりんさんのインタビューも載っております。

 

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必殺エモモモモ7 Twitter

必殺エモモモモ7 公式 (@emo7official) | Twitter

 

 

 

 

ありがとうございます。

サウスパークが描いてきたアメリカ大統領選⑤2016年トランプ対ヒラリー・クリントン

 前回、前々回同様、大統領選挙の翌日の2016年11月9日に放送されたシリーズ20・エピソード7「Oh,Jeez」は、タイトルがそのまま製作陣の気持ちだったろう。日本語にすると「マジかよ…」だろうか。

 

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 もともとこのエピソードには「The Very First Gentleman」という大統領選でヒラリー・クリントンが勝つことを前提にしたタイトルがつけられていた。トランプ勝利によってエピソードの大幅変更を余儀なくされた製作現場の混乱ぶりはそのままエピソードの出来に現れている。

 放送されたエピソードにはファースト・ジェントルになる予定だったビル・クリントンが登場するシーンも残されており、その箇所が余計にストーリーを混乱を招くことになった。

 

 サウスパークファンの間でもこのシーズン20の評判は悪い。
 大きな理由としては、従来の一話完結ではなくシーズンを通しての連続モノにしてしまった、トランプネタに固執しすぎた、というのが挙げられる。トレイ・パーカー、マット・ストーンら製作陣もそのことについては認めており、シーズン終了後に次のように語っている。

「『サタデー・ナイト・ライブ』と同じ罠にはまってしまった。まるで『我々がトランプをどう斬るか、お楽しみに』と煽るCNNみたいになっていた。僕もマットもそういうのが嫌いだったのに」

forbesjapan.com

 

 この発言からもわかるように、トレイ・パーカーもマット・ストーンも、サウスパークの作り手という立場においてはリベラルでも保守でもない。イデオロギーに対して過剰に支持し、持ち上げ、反応するどちらの人々を並列にコキ下ろしている。

 

 シーズンを通したストーリーにするためにプロットを複雑化してしまったことも破綻の理由のひとつだろう。
“メンバーベリー(懐古趣味)”と“ネット荒らし”という2つの大きなサブプロットは、どちらも本流の大統領選に中途半端に絡んだままでシーズンを終えてしまった。
 シーズン終盤は製作者自身が着地点を決めかねている印象も受け、大統領選挙の勝敗を反映させたエピソード7を書き換えることによってその破綻は決定的となった。

 シーズン20で大統領選挙はどのように描かれたのか振り返ってみる。

 

 小学校教師、ギャリソン先生が政治活動を始めたのは前シリーズ19のエピソード2「Where My Country Gone?」からだった。サウスパークにポリコレ旋風が吹き荒れる中、ギャリソン先生は増え続けるカナダからの移民に業を煮やして「移民を全員ハメ殺す!」という公約のもと立ち上がる。
 もちろん、このギャリソン先生の行動は2015年6月に大統領選挙に共和党候補として出馬することを表明したドナルド・トランプがモデルだ。

 

 シーズン20で描かれるアメリカではあらゆる関係、あらゆる場所で分断が進んでいた。
 白人対非白人はカートマンの“TOKEN LIFE MATTER (トークンはサウスパーク唯一の黒人男子生徒)”と書かれたTシャツに、女性の男性上位社会への反発は“Skankhunt42”という人物によるネット上で女性をバカにする荒らし行為とそれに抗議してバレーボールの試合前の国歌斉唱で起立しない女子生徒たち、といったシーンに描かれている。

 

 一方、「移民を全員ハメ殺す!」という政策ひとつで国民の分断を煽ってきたギャリソン先生は選挙前の世論調査でヒラリーに10%近い差をつけるほどに支持者を増やしていた。
 その裏には、“メンバーベリー”という人々を懐古趣味にしてしまう果物の暗躍があった--。この辺は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』とほぼ同じである。

 

 大統領就任が現実味を帯び始めてギャリソン先生は途端に怖じ気づく。
ホワイトハウスを牛耳って私は何をすればいいんでしょう?」「私たちは無政策のままホワイトハウスに突っ込むんですか?」
 かつての「就任1年目にはメキシコからの移民をはじめシリア難民、北朝鮮の首脳、麻薬の売人、広告業界など約760万人をハメ殺す!」という発言すら撤回するほど弱気になる。
 なんとしてでもヒラリーに勝たせるような選挙活動を展開し、選挙前最後のスピーチでは「私に投票しないでください。そして世界にスター・ウォーズの新作は微妙だったと示すのです。ヒラリーへのすべての票は『あの映画はただの同窓会だった』という意思表示となるでしょう」と国民に訴える。

 

 そして問題のエピソード7「Oh,Jeez」は、トランプ勝利という結果を受けて製作陣が土壇場で差し替えたであろうギャリソン先生の勝利演説シーンから始まる。
「人々は決めました。J・J・エイブラムススター・ウォーズの如くこの国をまた偉大にすると。では始めましょう。全員ハメ殺しです!」

 

 大統領選を終えたシーズン20はこの後、デンマークが開発した荒らし対策のネット履歴晒しシステムを阻止するため(大統領になったギャリソン含めた)サウスパークの住民が協力する、というストーリーになるのだが(※)、そのきっかけを作ったのが大統領選に負けたヒラリーというのがイマイチわかりにくい。ヒラリーはこの後一度も登場しないままシーズンから退場するし。
ノルウェーデンマークに伝わる妖精「troll」と英語でネットを荒らしを意味する「troll」がかかっている。

 

 では、放送直前で差し替えられたヒラリー勝利を描いた「The Very First Gentleman」だと話の展開がもう少しすっきりしていたのだろうか。

 

 2016年の大統領選ではヒラリーを不利にするさまざまなフェイクニュースが流れた。例を挙げると、ヒラリーはISISに武器を売却していた、ヒラリーは70年代にオノ・ヨーコと恋愛関係にあった、などなど。
(余談→大統領選一週間前の10月30日には、ウィキリークスにヒラリー陣営の選挙責任者の私的メールが流出。このメールからヒラリーに近い関係者が人身売買や児童買春に関わっているとTwitter掲示板に書き込まれ、これを信じた男による発砲事件まで引き起こした。ヒラリー落選に少なくない影響を及ぼしたこの疑惑は今ではフェイクニュースと結論づけられているが、最初のヒラリー陣営のメール流出はロシア情報機関によるサイバー攻撃と米政府は報告している)

 

 大統領選期間中、ヒラリーがフェイクニュースに頭を悩ませていたのはたしかで(その中にはトランプ発のものも多数にある)、サウスパークで男子と女子を分断させた荒らしの描写はこのフェイクニュースの問題を示唆しているのだろう。

 

 エピソード6の最後に勝利を確信するヒラリーのもとへ選挙ブレーンがネット荒らしに関する資料を持ってやってくるシーンがある。
デンマークのネット履歴晒しシステムの世界規模の運用は間近に迫っています。「そうなる前に荒らしの特定を止めなければ」「この人物はあなたの救世主になるかもしれません」

 

 フェイクニュースによって選挙活動を邪魔されたヒラリーがなぜ荒らしの特定を防ごうとしたのか?
 お蔵入りになったエピソードタイトルが「The Very First Gentleman」であること、放送された「Oh,Jeez」に登場したかつて不倫問題で騒がせたビル・クリントンの「妻を含めたすべての女はビッチだ」「女たちの男への復讐が始まる」という発言から推測すると、大統領選に勝ったヒラリーは自らが行っていた夫含めた男への復讐がネット履歴晒しシステムによって暴かれるのを恐れたのではないだろうか。

 つまり、幻の「The Very First Gentleman」は世界を荒らしとネット履歴晒しシステムから救ったのはクリントン夫妻の夫婦問題だった、というストーリーだ。

 それでもシーズン20がわかりにくいシーズンだったことは間違いない。