【近々の仕事】『エキサイティングマックス! Special』『裏ネタJACK』

 4月12日発売、『エキサイティングマックス! Special vol.157』(楽楽出版)に、連載ページ「この地下アイドルがすごい!!」を書いております。

 

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今回(第24回)は、セルフプロデュースで活動するガーリーなエレクトリックポップ5人組エレクトリックリボンさんを紹介させていただきました。全メンバーのインタビューも載っております。

 

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エレクトリックリボンofficial (@eribon_official) | Twitter

 

 4月19日発売『裏ネタJACK 2021年6月号』(ダイアプレス)に、「緊急事態宣言下の地下アイドルたち」というルポを書いております。プロダクションH.K.Pに所属する必殺エモモモモ7さん、B.K.S.Nさん、EMOPiPPiさんに取材協力いただきました。メンバーの皆さんのインタビューも掲載しております。

 

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EMOPiPPi

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B.K.C.N

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必殺エモモモモ7

 

サウスパーク「Vaccination Special」の感想と考察※2021/3/18加筆修正

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 ギャリソン先生やQアノンについては他のかたにお任せするとして(あとで自分でも書くかもしれないが)、ここでは今エピソードで壊れてしまったスタン、カイル、カートマン、ケニーの友情(broship)についての感想と考察に絞る。

 昼休み、カートマンはスタンとカイルを呼び出して相談を持ちかける。
パンデミックは収まってきたけど、オイラたちの友情はギクシャクしてるような気がしてさ。友情のために何かしなきゃいけないんじゃないかってケニーが心配してるんだ。それで話しあったんだけど、ケニーがいいアイデアを思いついたんだ」
 そのアイデアとは、担任のネルソン先生のイスにケチャップを仕掛けて生理がきたように見せるドッキリだった。

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 見事ドッキリは成功し、カートマンとケニーは爆笑するが、ネルソン先生は「命がけで仕事をしているのにこれでも教師はワクチンを打たせてもらえないの?もう耐えられない!」と教室を飛び出し、学校を辞めてしまう。

 カートマンとケニーが仕掛けたドッキリは、これまでサウスパークが繰り返しやってきたさまざまな差別を取り扱ったジョークのように見える。ということは、4人が友情を取り戻す=サウスパークらしくあらゆる問題を笑い飛ばすという意味なのだろうか?
 一方、ネルソン先生はストレートすぎる女性差別的なドッキリを仕掛けた生徒を叱るのではなく、コロナのワクチンを打ってもらえない社会に対して怒りをぶつけている。

 学校を辞めたネルソン先生の代わりに担任になったのは、大統領選に落ちたギャリソン先生だった。ギャリソン先生が担任になるのは死んでもイヤな生徒たち。スタンたち4人はマッケイさんにどうやったらネルソン先生が戻ってきてくれるか相談する。ここでも4人(特にケニー)はまず友情が壊れてしまうのを気にしている。
 マッケイさんは生徒たちの友情やひどいドッキリにあったネルソン先生のことなどどうでもいいようだ。
「もうそんなことを言ってられる状況じゃないんだよね。ネルソン先生が戻ってきてくれる方法はただひとつ。ウォルグリーン(薬局)に忍び込んで教師全員分のワクチンを盗み出してくること」
 

 ネルソン先生やマッケイさんら教師たち(本来はこういった前時代的な差別行為を許さないキャラとして存在してるはずのPC校長含む)、そしてエピソードの最後に「力を持つ者」と取引したギャリソン先生からイスラエルのワクチンを与えられバカ騒ぎするサウスパークの住民たちは、ワクチンを打ってコロナにかからないことが最も大事なことであり、すべての問題はそれで解決すると思っているかのようだ。

 一方、スタン、カイル、カートマンはかつての友情がもう戻らないことを悟ってしまう。その姿は愛情の冷め切った関係の夫婦のようだ。ひとり、まだ友情を信じているケニーには悟られないよう、3人はローテーションを組んでケニーの世話をしていくことを誓う。

スタン「いいかお前ら、うまくやれよ」
カートマン「ああ、オレはもう新しくつるむヤツらを見つけたから」
 そこに通りかかったクライド、ジミー、デイビッドはカートマンをカサボニータ(子供たちに人気のレストラン)に誘う。
「カサボニータだって!?もちろん行く…ちくしょう、週末はケニーの世話があるんだった!」

 

「Vaccination Special」の4人の姿を見てまず思い出したのはs15e7の「You're Getting Old」だ。

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※「You're Getting Old」について書いた記事

「You're Getting Old」では自我の成長に悩むスタンと、いつまでもバカをやり続けるスタンの父親ランディと「もうあなたにはついていけない」と嘆く妻シャロン破局が描かれた。
 親友・カイルとの友情を精算してまで新しい価値観と新しい関係を求めて前に歩み出そうとしたスタンだったが、ランディとヨリを戻したシャロンは息子をこのように教え諭す。
「ランディと話し合って子供たちにとって何が一番いいか分かったわ。人は年をとるものよ。あなたにもいずれ分かるわ、一番大事なのは続けることだって」

 愛情ではなく、子供たちのために夫婦関係を続けることを選んだランディとシャロン
 では、「Vaccination Special」のスタン、カイル、カートマンが失った友情が意味するものとは、今後はローテーションを組んでケニーの面倒を見ていくとはどういう意味なのだろうか?

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 おそらく、ケニーが意味しているのは、これまでサウスパークが扱ってきた人種差別や男女差別、政治、宗教、貧富といったアメリカが抱えている問題だ。カートマンはワクチンを手に入れた後、ネルソン先生に次のように弁解している。
「ワクチンを手に入れたので明日学校に戻ってきてくれませんか。あのドッキリは俺たちのせいじゃないんです。周りの男子たちに煽られたんですよ。生理をジョークにするなんて何歳だよ、って感じですよ」
「俺たちのやったことは不適切でした。女性の股から血が出るなんてジョークのどこがおもしろいんですかね。第一、そんなの差別的じゃないですか」
 カートマンが言うように、あのドッキリは2021年の今では見逃されない女性差別だ。そして、コロナ以前でも以後でも変わらずに社会に居座っている問題でもある。
「お前らのドッキリのせいでオレたちまで嫌われてしまっただろ!」とカイルに対して、カートマンは「お前はドッキリを知っていたのに止めなかったよな。沈黙は暴力だぞ」と繰り返す。
「沈黙は暴力=silence is violence」とは、昨年5月、黒人男性が警察官から暴行を受けて死亡した事件を受けてアメリカで起こったBLM運動のスローガンだ。

 ワクチンを与えられバカ騒ぎするサウスパークの大人たちのように、現実でもいつ収束するか分からないコロナ問題を目の前に、コロナさえなくなればすべての問題が解決するような世の中の気運と感覚に陥ってないだろうか。
 日本人にはアメリカの問題はいまいちピンと来ないかもしれないが、例えば東京オリンピックの問題を「コロナがなかったら」と単純化して考えることがもうできないのと同じような気がする。コロナがあってもなくても東京オリンピックは招致活動の頃から問題だらけだったし、アメリカもコロナ以前からトランプ政権を生み出しまう土壌を抱えていた。
 この原稿を書いている2021年3月18日にも、東京オリンピックの開会式で演出責任者の佐々木宏氏が女性タレントの渡辺直美氏をブタにする演出プランを考えていた、というニュースが報じられていた。
「渡辺直美をブタ=オリンピッグに」東京五輪開会式「責任者」が差別的演出プラン(文春オンライン)
 カートマンではないが、「いつの時代だよ」「それのどこがおもしろいんだよ」と言いたくなる。

 4人はワクチンを打ってバカ騒ぎする大人たちを横目に、別れ間際「これでこれで良かったのかもな」「ああ、これがいちばん良かったんだよ」と諦めにも似た会話を交わしている。
 それでも、スタン、カイル、カートマンは「ちくしょう、ケニーの世話があるんだった!」と帽子を叩きつけながらもケニーの面倒を見続けるようだ。

 クレイグが言うように、コロナ以前でも以後でも我々の周りには未だ解決されていない問題があり続けるのだ。

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あなたが私にくれたもの

 もうすぐバレンタインデーだが、プレゼントというのは難しい。
 相手のセンスや状況、お互いの関係性も考慮しながら、かつサプライズ感がある物。
 本当に欲しい物なら自分で手に入れているだろうから、自分では買うほどじゃないけどあったら嬉しい物が望ましい。ぼくならテレビだろうか。地デジ化以来、自宅でテレビを見ていないので。
 引っ越しや新生活を迎える人にはルンバや食洗機などが良さげだ。
 リリー・フランキー氏はエッセイでプレゼントについてこんなことを言っていた。

「贈り物は思いがけなく貰うのがいい。それを手にした時、相手がどこかで自分のことを気にかけてくれているのだと知る感触がいい」

 そういや、ぼくも先日そんなプレゼントを受け取った。

 女性の友人からLINEで不思議な画像が送られてきた。
 ぱっと見は足の甲から先が写っているだけの写真だが、よく見ると横に親指大の茶色い物体が写っている。
 ピンチでズームしてみる。一見うんこに似ているが、はて?
 1分後、キャプションが送られてきた。
スーパー銭湯のロッカー室にうんこありました。」
 やっぱり!つーか、なぜ?せめて先に言ってほしかった。ズームで見ちゃったよ。
 一応フォローしておくと、彼女はスカトロマニアでもなければ、普段こんなテロ行為を働くような人ではない。インスタに上げている写真はどれもオシャレでセンスの高いものだし、趣味はアナログレコード収集という自分だけの世界を楽しむことのできる人でもある。性格も同世代の友人たちの中でもかなり常識的で、ぼくのような人間とも丁寧に接してくれる広い心の持ち主でもある。
 そんな彼女がなぜ。
 うんこ画像にかなり引きながらその理由を聞いてみると、「前にボニーさんから、銭湯に行ったらおじいさんがうんこを漏らしながら浴室から出てきたという話を聞いたので」とのこと。
 たしかにその話を一席打った記憶はある。「ひどい」「すごいものを見ましたね」と言いながらも最後まで拒絶せずに話に付き合ってくれたのも憶えてる。
 つまり、ぼくの話にインスパイアされ、喜んでくれるとばかり思ってうんこの写真を撮り、送ってきたらしい。買ったばかりのiPhone12 Pro Maxで。
 怪物を生み出してしまったフランケンシュタイン博士の気分だ。
 たしかにぼくの普段の言動やセンスを鑑みてくれた上での画像だったのは分かる。その気持ちは嬉しい。サプライズ感も申し分ない。
 かと言ってだ。
「ぼくでもうんこの写真なんて撮りませんよ」
 ぼくの言葉に彼女はいたく心外そうだった。たしかにきっかけを作ったのはこちらなので、ぼくの方から謝っておいた。

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この前買ったでっかいダンゴムシのフィギュア

 

【近々の仕事】12/14発売『エキサイティングマックス! Special」連載ページ

12月14日発売、『エキサイティングマックス! Special 153』(楽楽出版)に、連載ページ「この地下アイドルがすごい!!」を書いております。

 

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今回(第20回)は、“エンタメ系ロックアイドル”必殺エモモモモ7さんを紹介させていただきました。メンバーの“歌担当の”みつきさん&“おっぱい担当”のゆうかりんさんのインタビューも載っております。

 

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必殺エモモモモ7 Twitter

必殺エモモモモ7 公式 (@emo7official) | Twitter

 

 

 

 

ありがとうございます。

サウスパークが描いてきたアメリカ大統領選⑤2016年トランプ対ヒラリー・クリントン

 前回、前々回同様、大統領選挙の翌日の2016年11月9日に放送されたシリーズ20・エピソード7「Oh,Jeez」は、タイトルがそのまま製作陣の気持ちだったろう。日本語にすると「マジかよ…」だろうか。

 

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 もともとこのエピソードには「The Very First Gentleman」という大統領選でヒラリー・クリントンが勝つことを前提にしたタイトルがつけられていた。トランプ勝利によってエピソードの大幅変更を余儀なくされた製作現場の混乱ぶりはそのままエピソードの出来に現れている。

 放送されたエピソードにはファースト・ジェントルになる予定だったビル・クリントンが登場するシーンも残されており、その箇所が余計にストーリーを混乱を招くことになった。

 

 サウスパークファンの間でもこのシーズン20の評判は悪い。
 大きな理由としては、従来の一話完結ではなくシーズンを通しての連続モノにしてしまった、トランプネタに固執しすぎた、というのが挙げられる。トレイ・パーカー、マット・ストーンら製作陣もそのことについては認めており、シーズン終了後に次のように語っている。

「『サタデー・ナイト・ライブ』と同じ罠にはまってしまった。まるで『我々がトランプをどう斬るか、お楽しみに』と煽るCNNみたいになっていた。僕もマットもそういうのが嫌いだったのに」

forbesjapan.com

 

 この発言からもわかるように、トレイ・パーカーもマット・ストーンも、サウスパークの作り手という立場においてはリベラルでも保守でもない。イデオロギーに対して過剰に支持し、持ち上げ、反応するどちらの人々を並列にコキ下ろしている。

 

 シーズンを通したストーリーにするためにプロットを複雑化してしまったことも破綻の理由のひとつだろう。
“メンバーベリー(懐古趣味)”と“ネット荒らし”という2つの大きなサブプロットは、どちらも本流の大統領選に中途半端に絡んだままでシーズンを終えてしまった。
 シーズン終盤は製作者自身が着地点を決めかねている印象も受け、大統領選挙の勝敗を反映させたエピソード7を書き換えることによってその破綻は決定的となった。

 シーズン20で大統領選挙はどのように描かれたのか振り返ってみる。

 

 小学校教師、ギャリソン先生が政治活動を始めたのは前シリーズ19のエピソード2「Where My Country Gone?」からだった。サウスパークにポリコレ旋風が吹き荒れる中、ギャリソン先生は増え続けるカナダからの移民に業を煮やして「移民を全員ハメ殺す!」という公約のもと立ち上がる。
 もちろん、このギャリソン先生の行動は2015年6月に大統領選挙に共和党候補として出馬することを表明したドナルド・トランプがモデルだ。

 

 シーズン20で描かれるアメリカではあらゆる関係、あらゆる場所で分断が進んでいた。
 白人対非白人はカートマンの“TOKEN LIFE MATTER (トークンはサウスパーク唯一の黒人男子生徒)”と書かれたTシャツに、女性の男性上位社会への反発は“Skankhunt42”という人物によるネット上で女性をバカにする荒らし行為とそれに抗議してバレーボールの試合前の国歌斉唱で起立しない女子生徒たち、といったシーンに描かれている。

 

 一方、「移民を全員ハメ殺す!」という政策ひとつで国民の分断を煽ってきたギャリソン先生は選挙前の世論調査でヒラリーに10%近い差をつけるほどに支持者を増やしていた。
 その裏には、“メンバーベリー”という人々を懐古趣味にしてしまう果物の暗躍があった--。この辺は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』とほぼ同じである。

 

 大統領就任が現実味を帯び始めてギャリソン先生は途端に怖じ気づく。
ホワイトハウスを牛耳って私は何をすればいいんでしょう?」「私たちは無政策のままホワイトハウスに突っ込むんですか?」
 かつての「就任1年目にはメキシコからの移民をはじめシリア難民、北朝鮮の首脳、麻薬の売人、広告業界など約760万人をハメ殺す!」という発言すら撤回するほど弱気になる。
 なんとしてでもヒラリーに勝たせるような選挙活動を展開し、選挙前最後のスピーチでは「私に投票しないでください。そして世界にスター・ウォーズの新作は微妙だったと示すのです。ヒラリーへのすべての票は『あの映画はただの同窓会だった』という意思表示となるでしょう」と国民に訴える。

 

 そして問題のエピソード7「Oh,Jeez」は、トランプ勝利という結果を受けて製作陣が土壇場で差し替えたであろうギャリソン先生の勝利演説シーンから始まる。
「人々は決めました。J・J・エイブラムススター・ウォーズの如くこの国をまた偉大にすると。では始めましょう。全員ハメ殺しです!」

 

 大統領選を終えたシーズン20はこの後、デンマークが開発した荒らし対策のネット履歴晒しシステムを阻止するため(大統領になったギャリソン含めた)サウスパークの住民が協力する、というストーリーになるのだが(※)、そのきっかけを作ったのが大統領選に負けたヒラリーというのがイマイチわかりにくい。ヒラリーはこの後一度も登場しないままシーズンから退場するし。
ノルウェーデンマークに伝わる妖精「troll」と英語でネットを荒らしを意味する「troll」がかかっている。

 

 では、放送直前で差し替えられたヒラリー勝利を描いた「The Very First Gentleman」だと話の展開がもう少しすっきりしていたのだろうか。

 

 2016年の大統領選ではヒラリーを不利にするさまざまなフェイクニュースが流れた。例を挙げると、ヒラリーはISISに武器を売却していた、ヒラリーは70年代にオノ・ヨーコと恋愛関係にあった、などなど。
(余談→大統領選一週間前の10月30日には、ウィキリークスにヒラリー陣営の選挙責任者の私的メールが流出。このメールからヒラリーに近い関係者が人身売買や児童買春に関わっているとTwitter掲示板に書き込まれ、これを信じた男による発砲事件まで引き起こした。ヒラリー落選に少なくない影響を及ぼしたこの疑惑は今ではフェイクニュースと結論づけられているが、最初のヒラリー陣営のメール流出はロシア情報機関によるサイバー攻撃と米政府は報告している)

 

 大統領選期間中、ヒラリーがフェイクニュースに頭を悩ませていたのはたしかで(その中にはトランプ発のものも多数にある)、サウスパークで男子と女子を分断させた荒らしの描写はこのフェイクニュースの問題を示唆しているのだろう。

 

 エピソード6の最後に勝利を確信するヒラリーのもとへ選挙ブレーンがネット荒らしに関する資料を持ってやってくるシーンがある。
デンマークのネット履歴晒しシステムの世界規模の運用は間近に迫っています。「そうなる前に荒らしの特定を止めなければ」「この人物はあなたの救世主になるかもしれません」

 

 フェイクニュースによって選挙活動を邪魔されたヒラリーがなぜ荒らしの特定を防ごうとしたのか?
 お蔵入りになったエピソードタイトルが「The Very First Gentleman」であること、放送された「Oh,Jeez」に登場したかつて不倫問題で騒がせたビル・クリントンの「妻を含めたすべての女はビッチだ」「女たちの男への復讐が始まる」という発言から推測すると、大統領選に勝ったヒラリーは自らが行っていた夫含めた男への復讐がネット履歴晒しシステムによって暴かれるのを恐れたのではないだろうか。

 つまり、幻の「The Very First Gentleman」は世界を荒らしとネット履歴晒しシステムから救ったのはクリントン夫妻の夫婦問題だった、というストーリーだ。

 それでもシーズン20がわかりにくいシーズンだったことは間違いない。

サウスパークが描いてきたアメリカ大統領選④2012年オバマ対ロムニー

 前回同様、大統領選挙の翌日2012年11月7日に放送された「Obama Wins!」(シリーズ16・エピソード14)。長引く景気低迷から前回に比べて苦戦が予想された対ミット・ロムニー戦だったが、サウスパーク製作陣がオバマ勝利という読みに自信を持っていたことが窺えるストーリー構成となっている。

 

 今回のストーリーはほぼメインプロット1本で進む。オバマ再選の裏にはカートマンの暗躍、その裏には大統領選の争点となった対中政策があったという展開だ。

 

 カートマンは選挙の激戦州であるコロラドノースカロライナ、フロリダ、オハイオネバダの年寄りしかしない投票所のスタッフを欺き、何十万という票を盗み出していた。
 カートマンを雇っていたのは中国、その中国と取引していたのは、オバマだった。

 オバマは再選と交換条件に中国にある物を差し出すことを約束していた。

 カートマンを手助けしていたバターズはカイルやスタンに問いつめられ、白状する。
「今週いちばんのニュースは大統領選挙じゃない」

 

 中国がオバマに要求していたものとは、大統領選挙投票日の一週間前にディズニーへの売却が報道された「スター・ウォーズ」を含むルーカス・フィルムの権利だった。
 この辺はモーガン・フリーマンが分かりやすく説明してくれる。
 そしてカートマンは中国に対して盗んだ票の在処を教える代わりに「スター・ウォーズの新シリーズには自分をルークの息子役として出演させること」を条件に出す。

 

 盗まれた票を探し出すカイルたちの目の前に現れたのはミッキーマウス卿。「中国との取引って何のことだ?スター・ウォーズはもう全部オレのもんだぞ、ハハ」
 中国にルーカス・フィルムを横取りされたくないミッキー卿もまた対中政策で強硬論を見せるロムニーを大統領に据えるため盗まれた票を探していた。

 カートマンは中国を裏切ってミッキーと手を結ぶ。彼が票を隠していたのは、2009年に経営破綻し、中国との売却話も破談となり、今やアメリカ国民からも見向きもされなくなったGM社のハマー販売店だった。

 

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 カイルたちや中国人に票の隠し場所を発見されたカートマンは警察を引き連れてやってくる。
「やっぱ民主主義のためにはこの票を公表しなければいけないよな、カイル」
 それを必死に止める中国。「やめろ、私たちは偉大なシリーズを守ろうとしているんだ」
 何がなんだか分からないカイルたち。
 そこへモーガン・フリーマンが再び登場。
「中国人が必死になってスターウォーズをほしがっている理由は、ディズニーはこのシリーズの置き場所に相応しくないと心配したからだ」
「我々は岐路に立っている。もしこの票を公表したら、大統領には国民が投票した者がなる。だが、その者はスターウォーズを中国から遠ざけ、ディズニーが保有することを認めるだろう。正しい者が大統領になるか、それともスターウォーズとそれを守る者(=中国)を共にさせるか」
 モーガン・フリーマンの演説を聞いたスタンはカートマンが盗んだ票を燃やし、再びアメリカは大統領にオバマを選ぶ。

 

 大統領のイスを条件にルーカス・フィルムのディズニーへの売却を防いだサウスパークだったが、現実世界ではこの3年後にディズニー資本で新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(エピソード7)が公開。今やカートマンが盗み出した票同様、ファンからはなかったことにされている続3部作が幕を開けることになる。

 やはり、ルーカス・フィルムはディズニーに売却するべきではなかったのだ。
 ところが、2019年に放送されたシーズン23・エピソード2「Band in China」で中国市場向けを狙って自国のエンターテイメント業界が自己検閲してることを皮肉り、中国ではサウスパークが閲覧中止に。
 今年公開された映画『ムーラン』を巡っても中国にディズニーは忖度しまくりだし、次回の2016年トランプ対ヒラリー・クリントン戦になるともはや現実にフィクションが追いつかない事態となる。

サウスパークが描いてきたアメリカ大統領選③2008年オバマ対マケイン

 2008年11月4日に行われたバラク・オバマジョン・マケイン共和党)によるアメリカ大統領選挙の結果「オバマ勝利」が報じられたのは同日午後10時頃。シリーズ12・エピソード12の「About Last Night…」はそれからほぼ24時間後の翌日10時にテレビ放送された。

 

 放送日が大統領選翌日ということに気づいてからプロットを考えたというこのエピソードは、オバマが4日夜に地元シカゴのグラントパークで行った勝利演説シーンを完全再現した冒頭シーンは当然突貫作業によって作られたものとしても、それ以外のほとんどのシーンは本選挙前からオバマ勝利ありきで作業が進められたことになる。改めてサウスパークのニュース性と製作スケジュールのタイトさが窺える。

 

 オバマの勝利が報じられるや、サウスパークではランディらオバマ支持者たちが路上に出て馬鹿騒ぎ。ズボンを脱ぎ、ビールサーバーを持ち込み、信号機に上り、パトカーを引っくり返し、ところかまわずゲロを吐き、上司をぶん殴りながら「オバマ!」「チェンジ!」と叫ぶ。全部ランディーの仕業だが。

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大統領選当日の夜、アメリカではこれに近い騒ぎがあったという

 

 共和党支持者たちーーバターズの父親スティーブンやギャリソン先生、ビクトリア校長、マッケイさんら(学校の先生が多い)は「この国の終わりだ」「たぶん日の出まで死ぬ」と悲観し、町の外れにシェルター(箱舟)を掘って新政権による死の灰から逃れることに。
 ひとりカートマンは不在となった家々からテレビを盗んで売り歩いていた。

 

 一方、その頃、オバマとマケインは合流し、作戦の第一段階の成功を祝う。
彼らが10年前から計画した作戦とは、大統領選挙で全国民が浮かれている間に史上最大の強盗を企てるというもの。
 オバマとマケインをはじめとするチームの目的は、世界最高の防犯システムで守られたスミソニアン博物館から2億1千万ドルのホープダイヤモンドを盗み出すこと。二人はホワイトルーム執務室地下にある長さ3キロのトンネルを通りスミソニアン博物館に潜入するために大統領選に出馬したのだ。マケインの「ヒヤヒヤしたぜ。引き分けちまうんじゃないかと思ってよ」という台詞からも、どっちが大統領選に勝利してもよかったのだろう。
 チームにはマケイン陣営の副大統領候補サラ・ペイリンやミシェル・オバマ、大統領選前日に亡くなったオバマの祖母も合流し、『オーシャンズ11』をパロディーが展開される。

 

 マケインの敗北に悲観し、窓から飛び降りて足を怪我した弟を病院に連れて行くカイル。病院は急性アル中(→オバマ支持者)と自殺未遂によるケガ人(→マケイン支持者)でいっぱいだった。

 

 そして一夜明け。
 ダイヤを盗み出したオバマ一行は高飛びするため空港へ。飛行機が出る直前、オバマは仲間たちに「俺は強盗を引退する。大統領をやってみるよ」と告げ、ミシェルと共に再びホワイトハウスへ向かう。
 

 スティーブンらシェルターに避難した共和党支持者たちはその世界がまだあることに驚く。「つまり、過剰反応しすぎた?」「たぶん、オバマでも大丈夫だろう…」

 ひどい二日酔いで目覚めたランディに息子スタンが伝える。「会社、クビだって」。
ランディ「ちくしょう、なにが“チェンジ”だよ!あの野郎、だましやがって!マケインにしとくんだった!」