あなたが私にくれたもの

 もうすぐバレンタインデーだが、プレゼントというのは難しい。
 相手のセンスや状況、お互いの関係性も考慮しながら、かつサプライズ感がある物。
 本当に欲しい物なら自分で手に入れているだろうから、自分では買うほどじゃないけどあったら嬉しい物が望ましい。ぼくならテレビだろうか。地デジ化以来、自宅でテレビを見ていないので。
 引っ越しや新生活を迎える人にはルンバや食洗機などが良さげだ。
 リリー・フランキー氏はエッセイでプレゼントについてこんなことを言っていた。

「贈り物は思いがけなく貰うのがいい。それを手にした時、相手がどこかで自分のことを気にかけてくれているのだと知る感触がいい」

 そういや、ぼくも先日そんなプレゼントを受け取った。

 女性の友人からLINEで不思議な画像が送られてきた。
 ぱっと見は足の甲から先が写っているだけの写真だが、よく見ると横に親指大の茶色い物体が写っている。
 ピンチでズームしてみる。一見うんこに似ているが、はて?
 1分後、キャプションが送られてきた。
スーパー銭湯のロッカー室にうんこありました。」
 やっぱり!つーか、なぜ?せめて先に言ってほしかった。ズームで見ちゃったよ。
 一応フォローしておくと、彼女はスカトロマニアでもなければ、普段こんなテロ行為を働くような人ではない。インスタに上げている写真はどれもオシャレでセンスの高いものだし、趣味はアナログレコード収集という自分だけの世界を楽しむことのできる人でもある。性格も同世代の友人たちの中でもかなり常識的で、ぼくのような人間とも丁寧に接してくれる広い心の持ち主でもある。
 そんな彼女がなぜ。
 うんこ画像にかなり引きながらその理由を聞いてみると、「前にボニーさんから、銭湯に行ったらおじいさんがうんこを漏らしながら浴室から出てきたという話を聞いたので」とのこと。
 たしかにその話を一席打った記憶はある。「ひどい」「すごいものを見ましたね」と言いながらも最後まで拒絶せずに話に付き合ってくれたのも憶えてる。
 つまり、ぼくの話にインスパイアされ、喜んでくれるとばかり思ってうんこの写真を撮り、送ってきたらしい。買ったばかりのiPhone12 Pro Maxで。
 怪物を生み出してしまったフランケンシュタイン博士の気分だ。
 たしかにぼくの普段の言動やセンスを鑑みてくれた上での画像だったのは分かる。その気持ちは嬉しい。サプライズ感も申し分ない。
 かと言ってだ。
「ぼくでもうんこの写真なんて撮りませんよ」
 ぼくの言葉に彼女はいたく心外そうだった。たしかにきっかけを作ったのはこちらなので、ぼくの方から謝っておいた。

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